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巻頭言
  「Japan Quality のゆくえ」 (第136会報)
日本新金属株式会社
取締役社長 谷内 俊之

止まらない品質不正
 ここ数年、製造業における品質不正の問題が相次いでいる。長年にわたって繰り返されてきたケースや、意図的に隠ぺいした悪質性の高いケースなども次々に露見し、日本品質の評価に陰りが見え始めている。

 遡ると、世間を騒がせるようになったのは2016 年頃の自動車メーカーの燃費試験不正や鉄鋼メーカーの強度試験データ改ざんなどからのようだ。悲しいかな10 年弱、教訓が生かされないまま今日に至っていることになる。当初は「個々の企業としての問題」として見られてきたこれらの品質不正の問題であるが、これほどまでにさまざまな領域で不正が明らかになっていることを見ると、日本のものづくりに根深く潜んでいるいくつかの問題があるように感じられる。

 筆者も10 年程度品質保証に関わった経験があり、品質問題のただ中でいろいろな対応もしてきたので、Japan Quality はこれからどこに向かうのかを少し考えてみたいと思う。

日本品質はいまでも通用するか
 日本の製造業では、たくさんの匠と言われる方々が、お客様に少しでも高品質な製品を届けようと日夜奮闘努力をされている。そこに脈々と流れるのは日本品質で世界を制覇したいという熱い思いであることに疑いはない。日本品質という言葉をわれわれは何気なく使っているが、実はわれわれが思うよりずっと高い技術の集積なのかもしれないと数年前に認識することがあった。

 海外で配布を受けた資料のホチキスの針を外そうとしたのだが、曲がった針をまっすぐにする度に折れてしまう。外すのに苦労したが、日本の針はこんなことはない。また、中国は年産400 億本というボールペンの生産大国なのだそうだが、ペン先の非常に小さなボールだけは高精度な加工・固定技術が必要で、いまだに日本製だそうだ。

 品質に厳しい目を持つ消費者に鍛えられ、精巧を追い求める気質と相まって、知らないうちに他国では容易に真似できない製品が生まれて来たのだと思う。

 また、外国人の方との会話の中で出てきたのだが、Japan というワードを見たり聞いたりすると、それが製品名であろうと会社名であろうと「高品質」というイメージが想起されるとのことだ。日本人には気付けない視点だと感じる。現在でもなんとか「日本品質」は通用するレベルにあるようだ。

なぜ品質問題は起こるのか
 では、なぜ品質不正は起こってしまうのか?その原因の多くは開発現場への過度なプレッシャーとされている。特に開発目標がクリアできているかどうかをチェックする評価担当部署への圧力は相当なものである。加えて、開発現場がそのような強いプレッシャーのさらされてることを経営層が認識できていないコミュニケーションの問題も内在しているとされる。

 したがって、データ改ざんできないようにDX を駆使して検査自動化や自動データ転送を進めるとともに、開発進捗を
経営層から現場まで見える化することは最低限必要となるであろう。さらに、品質保証部門の独立性を担保して、最終的な出荷判断権限を与えることも重要と思う。

 と、ここまでは教科書的な解答なのであるが、私の経験では開発に入り口段階、すなわち設計仕様を決め込む段階にも大きな問題があると思っている。日本製品は従前から高品質であることをことさらに強調され、技術者はものづくりのばらつきレベル( 工程能力) を十分考慮することなく、図面や仕様書上の規格をどんどん狭めていったのではないだろうか。

 それでも、ものづくりができるのが「Made in Japan」という神話のせいで、製品を提供する側も、それを受け取る側も
極めて厳しい規格であるのを薄々知りながら、問題なく達成できるという根拠のない自信があったように思う。

 図面規格に入らないことは担当者レベルではお互い承知であるが、「上司に規格に入らないものを納入しているとは言えないので、図面はそのままにしておいてくれ」と顧客から頼まれたという話を聞いたことがある。本来であれば、工程能力を考慮して規格を広げる、あるいは規格はそのままで規格を外れる不良分を価格に転嫁すべきであろう。

 神話は捨ててものづくりに正直になろう。それでもJapanQuality は十分世界に通用すると思う。

Japan Quality はどこへ行く
 日本の工業製品は、お客様の生産性向上のために製造現場の要求に答える形で開発が続けられてきた。その開発は、製品の上流から下流まで、すなわち素原料や材料組成、製造プロセスの全てが最適化されて初めて実現される。

 その意味で筆者は、小さな製品一つであっても、その中には高度なすり合わせ技術が詰まっていると考えている。また、このすり合わせは日本人の得意とするところである。

 すりあわせ技術を磨き、上流から下流まで全部の品質が絶妙にバランスされて、最終製品のQuality に統合される。上流から下流まで全ての品質を高めるとコストで勝負できなくなるので、製品品質を決める大事な部分とそうでない部分を見極める過剰品質防止の視点も重要である。

 この統合品質を高めることこそがJapan Quality の目指すべき方向であろう。
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