1. 緒言
弊社タンモリ事業では、ワイヤーの編み加工技術を駆使して、SAR衛星(図1)と呼ばれる人工衛星のアンテナに用いられるドープMoメッシュの製造・販売を行っている(1)。Moメッシュに対する要求特性として、高電気伝導性や低熱膨張係数、高強度等が挙げられるが、メッシュの取扱いという観点からは強度特性の異方性が重要となる。図1に示すように、Moメッシュは、衣類等の織物同様にMo素線を編込むことで得られ、加工時の送り方向に対して水平方向と垂直方向では強度特性が異なることがある。アンテナにメッシュを取付ける際、メッシュに張力を加えながら縫い付けるが、強度特性に異方性があると、メッシュ方向によって加える張力の大きさを調整しなければ、メッシュが破損してしまう可能性がある。すなわち各方向で強度差の小さなメッシュは、ユーザーでの取扱いが容易であると考えられ、これまで異方性の小さいメッシュの製造方法を検討してきた。本報では、メッシュの強度異方性について、編み方および編み加工時の送り速度をパラメータとして、その影響について調査した。
2. Moメッシュの強度評価方法
表1に示す水準でMoメッシュを作製し、加工方向に対して水平および垂直方向に引張強度が評価できるよう注意して、幅20mm、標点距離50mmが確保できるようメッシュを採取して引張試験に用いた。引張試験時の速度は50mm/minとし、メッシュが破断するまで引っ張った。得られた荷重-伸び曲線より、伸び30%における荷重を確認して、各方向での荷重差を算出した。

3. 強度評価結果
図1に各編み方における、荷重-伸び曲線を示す。伸び30%における各方向の荷重差は、編み方Aが139.3gf、Bが201.3gfそしてCは328.4gfであり、編み方が引張強度の異方性に影響を及ぼすとともに、編み方Aが最も異方性のない方式であることが分かった。編物や織物の引張特性は、それらの構造や糸の力学的性質が関係しているとされている(2)。すなわち、編み方によってはメッシュ構造に異方性が生じ、その結果として引張強度にも異方性が生じると考えられる。
送り速度においては、速度の遅い①と②では荷重差がそれぞれ300.5gfと309.2gfで、速度の速い③と④では85.5gfと139.3gfであり、同じ編み方でも送り速度によって強度異方性に差が生じることが分かった。図4(3)に示すように、編物はその最小単位である編目が連なって形成される。送り速度によって編目同士に加えられる張力は変化し、メッシュ構造に影響を及ぼすと考えられる。送り速度が速いほどより大きな張力が加えられ、今回の場合、送り速度③で異方性が最も小さくなったのは、この速度で得られたメッシュが最も異方性の小さい構造であったためと考えられる。
これらの評価結果より、編み方Aで送り速度③を選択することで異方性の少ないMoメッシュが製造できた。
4. 結言
本報では、人工衛星用Moアンテナメッシュの重要特性であるメッシュ引張強度の異方性における編み方と送り速度の影響を紹介した。これら評価結果を基に、直径数十μmのMo細線から面積16m以上の取扱い易いメッシュを製造することが可能となった。今後も宇宙産業の発展を支えるものづくりを継続していきたい。




参考文献
(1)澤井優輔,笠本誠,“衛星アンテナ用Moメッシュの製造”,第35回 タンモリ工業会セミナー(2023年)
(2)井上真理,“繊維集合体としての布の特性について”,SEN’I GAKKAISHI(繊維と工業)Vol.64,No8(2008)
(3)株式会社 今井機業場. “そもそもトリコット(経編)って? |生産のこと | 今井機業場 経編(トリコット)ニット生地の開発・製造 富山県南砺市”. https://www.imaikigyo.ecweb.jp/production/whats_tricot/,(参照2024-11-13)