明けましておめでとうございます。新春を迎え、皆様のご健勝とご多幸を心よりお祈り申し上げます。また、日頃より当工業会に格別のご高配とご支援を賜り、厚く御礼申し上げます。年頭にあたり、所感を述べさせていただきます。
ロシアによるウクライナ侵攻は早くも3年を迎えようとしており、イスラエル・パレスチナ情勢も出口の見えない状況が続いています。経済状況もまだら模様の中、1月20日に発足する米国のトランプ政権の施策により、日本にも大きな影響が及ぶ可能性があります。また、エネルギーや資材価格の高騰、円安による物価上昇など、先行きの不透明さが増し、予断を許さない状況が続くと予想されます。
一方で、地球温暖化の影響も深刻さを増しています。昨年は特に暑い一年でしたが、世界気象機関(WMO)の発表では、世界の平均気温は観測史上最高を更新し、産業革命前から1.55℃高くなりました。日本でも気象庁の発表によると、昨年の平均気温が過去30年の平均値を1.48℃上回り、1898年の統計開始以降で最も高くなりました。地球温暖化が進むと、異常気象や自然災害、海面上昇、生態系の変化、食糧危機、ウイルスのまん延などの影響が懸念されます。このような状況に対処するための取り組みが求められることは明らかです。
日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指しています。その目標を達成するためには、徹底した省エネの実施や再生可能エネルギーの活用はもちろんのこと、原材料の調達や輸送、製品使用後の廃棄に至るまでの配慮が必要です。重要なのはCO2の「見える化」であり、CO2の排出量を定量的に把握し、削減の道筋を立てる必要があります。
当工業会に関しては、100年近く照明の主流であった電球や蛍光灯にタングステンやモリブデンが使用されていましたが、エネルギー効率の低さや環境への配慮からLEDへの転換が進み、大きな変革を経験しました。また、自動車業界でも内燃機関から電動車へのシフトが進み、超硬工具に使われるタングステンの消費が減少していく見込みです。これらの変革の共通点は、効率化と環境への配慮です。
しかしながら、拡大する用途もあります。例えば、太陽光発電のシリコンウェハー切断に用いるタングステン線や、化学蒸着法を利用して低抵抗配線を形成するために使用するタングステン板、棒、粉末などは、それぞれ数千トンの需要があり、さらに拡大の余地を残しています。他にも水素核融合向けのタングステンやモリブデンの部材、風力発電や電動車のインバーターに使われる放熱基板(銅モリブデン、銅タングステン)なども、今後の拡大が期待され、カーボンニュートラルに貢献する用途と言えます。
CO2の「見える化」に関しては、タングステンやモリブデンの製造工程におけるCO2の排出量の試算が行われています。タングステンの場合、採掘、精錬、粉末冶金での電力消費に加え、湿式精錬工程の溶媒抽出に使われるケロシンがCO2排出の大きな要因です。タングステン製品の1トン当たりのCO2排出量は通常プロセスで21トン程度との試算に対し、リサイクルを活用すると、採掘・精錬工程を省くことで、10トン程度まで大幅に減少できるという報告もあります。
カーボンニュートラルは短期的にはコストが増える可能性があります。しかし、持続可能な企業であることを投資家や顧客、サプライヤー、社員などのステークホルダーに広くアピールすることで新たな投資や、意識の高い顧客やサプライヤーとのビジネスを呼び込む可能性も期待されます。このような環境への配慮や持続可能な社会の形成は、大きなビジネスチャンスと捉えることができます。
私は昨年6月に当工業会の理事長に就任し、半年が経過しました。その間、工業会としての使命を再確認し、今後の方向性を模索してまいりました。工業会の役割は以下の通りです。
- 会員企業の技術力や競争力を高めるための研修の実施。
- 最新の技術動向や原料事情を含めた業界情報の提供と共有。
- 地域社会への貢献や、持続可能な社会の形成を目指した活動。
- 政府や行政機関に対し業界の意見を表明し、政策や規制の改善を図る。
タングステンやモリブデンの業界で起きている事象を直視し情報を共有すること、互いに切磋琢磨しつつ、節度ある関係を保ちながら、強みを理解し生かし合うこと、カーボンニュートラルをビジネスチャンスと捉え、変化に迅速に対応すること、これらを会員企業の皆様と共に取り組んでいきたいと考えます。
私自身も昨年から冷暖房の使用を控え、省エネタイプの電化製品に替え、徒歩や公共交通機関の利用(スマートムーブ)や、できるだけ地産地消のものを食べること(フードマイレージ)を心がけるようにしています。これらの取り組みは健康面でも良い影響をもたらすと考えています。できることから始め、声を上げて輪を広げ、改善していくことが重要だと思います。
最後になりますが、皆様の益々のご発展とさらなるご活躍を祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせていただきます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。