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ポリエチレンイミンを用いた WO3ナノ粒子合成方法の確立と 可視光応答型光触媒への応用

株式会社Niterra Materials
福士 大輔

第142号会報(2026年1月23日発行)

#技術紹介

1.緒言

光触媒は光を吸収することで生成する電子と正孔によって反応を進行させる触媒である。光触媒が吸収する光のエネルギーは材料固有のバンドギャップに依存する。特に紫外光よりも低エネルギーの可視光を使用できる光触媒を可視光応答型光触媒と呼ぶ。可視光応答型光触媒は屋内のLED光を利用可能であり、その有機物分解反応により、消臭、抗菌、抗ウイルスの効果が期待されている。

 

三酸化タングステン(WO3)はバンドギャップが2.5eVであり、約500 nm以下の波長の可視光を使用することが可能であるため、可視光応答型光触媒として期待されている。光触媒特性を向上させるためには、結晶性の向上と、比表面積を増加(粒径の微細化)が重要である。(1)しかし、WO3は高融点の金属酸化物であるため、小粒径化が難しく、さらに結晶性を上げるための焼結においてさらに粒径が増大するため、小粒径化と結晶性向上の両立が困難であった。弊社では白熱電球用フィラメントで培ったタングステンの加工、結晶制御技術を応用することでWO3ナノ粒子を製造し、光触媒として販売をしている。最近では新たに群馬大学の佐藤和好教授との共同研究により新規のWO3ナノ粒子の合成方法としてポリエチレンイミン(PEI)を用いた合成方法(PEI法)を確立した。本報告ではPEI法を用いて合成したWO3ナノ粒子の光触媒活性について報告する。

 

2. 実験

実験にはH2WO4(高南無機製)、およびPEI(分子量1200、日本触媒製)を用いた。PEIを水と混合して10分間撹拌した後、H2WO4を投入し30分撹拌した。その後、一日静置、乾燥することで、前駆体を得た。得られた前駆体を500℃、550℃、600℃で焼成し、PEIを焼失させることでWO3粒子を得た。得られたWO3粒子は比表面積をBET法、結晶性はX線回折、光触媒特性はアセトアルデヒドを用いた有機物の分解速度により評価した。アセトアルデヒドの分解測定は[図1]の装置を用いてアセトアルデヒド初期濃度10 ppm、照度6000 lxの条件で測定した。

 

3.結果と考察

得られたWO3のBET比表面積は、焼成温度の上昇とともに減少し、それぞれ500℃:25 m2/g、550℃:17 m2/g、600℃:7 m2/gであった。[図2]に500℃で焼成したWO3のSEM像を示す。 500℃で焼成したWO3ナノ粒子の比表面積である25 m2/gから換算される粒径は約30 nmであり、SEM像の粒径とよく一致している。

 

[図3]に各温度で焼成したWO3のX線回折プロファイルを示す。全てのサンプルで単斜晶WO3のピークが観察された。500℃と比較して550℃、600℃のピークはシャープであり、焼成温度の上昇に伴い結晶性が高くなることが示された。

 

[図4]にアセトアルデヒドの分解測定の結果を示す。500℃および550℃で分解速度が速く、600℃は分解速度が低下した。

 

今回の測定結果から、PEI法によりWO3粒子を合成し、全てのサンプルで光触媒性能を示すことが確認された。また、500℃、550℃よりも600℃焼成では光触媒活性が低下したが、これは、600℃では結晶化と同時に粒成長により比表面積が減少した結果、活性が低下しと考えられる。本研究で新たにPEI法により、可視光応答型光触媒として利用可能なWO3ナノ粒子を調整することができた。今後は他の高分子の検討や焼成温度の最適化によりさらに光触媒特性の向上が見込まれる。また、本方法で合成したWO3ナノ粒子は他の用途にも転用可能でありエレクトロクロミックデバイスへの応用も検討している。さらに、PEI法は他の金属酸化物ナノ粒子にも展開可能であり、広い用途への応用が期待できる。

 


[図1]アセトアルデヒド分解測定測定装置

 


[図2] WO3粒子のSEM像(500℃焼成)

 


[図3] WO3の X線回折プロファイル

 


[図4] WO3のアセトアルデヒド分解測定

 

参考文献
(1)D. Fukushi, A. Sato, T. Kusaka, Y. Kataoka, K. Kobayashi, Enhancing the rate of organic material decomposition photo catalyzed by high performance visible light activated tungsten oxide, ECS Trans. 61 (2014) 43–49.

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