
このたび、タングステン・モリブデン工業会の賛助会員として参加させていただくこととなりました。すでにご縁のある方も多いかと存じますが、改めまして、よろしくお願い申し上げます。
私は2001年から20年以上にわたり、タングステン業界、特に精鉱・ST・APTなどの原料取引に携わってまいりました。今年2月、中国がAPT・YTO・WC粉などに輸出許可制度を導入し、ほとんど許可が下りない状況となったとき、「とうとう来たか…」という思いとともに、「私は果たして十分な備えをしてきたのか?」という自問が湧き上がりました。工業会の皆様の中にも、同じ思いを抱かれた方がいらっしゃるのではないでしょうか。
とはいえ、昨年のような需要が低調な局面では、在庫を積み増す判断は難しく、多くの方が逆に「いかに在庫を減らすか?」を考えていたのではないかと思います。過去は変えられません。だからこそ今、現状を冷静に見つめ直し、何をすべきかを考え、行動に移すことが重要です。
日本が中国からAPTを本格的に輸入し始めたのは、1980年代半ばからです。私がタングステン業界に入った2001年には、すでに中国産APTが市場を席巻していました。当時は1999年に導入された輸出枠制度により供給が逼迫し、APT価格は90ドル台まで急騰。混乱が広がりましたが、当時はまだ中国の中小製錬工場や地方の貿易公司が活発に活動しており、ベトナム経由の迂回ルートなどを通じて、やがて相場は落ち着きました。
その後、2005年初頭に再びAPT相場が急騰し、5月には250ドルを突破。2007年には中国が輸出税を導入。リーマンショックや尖閣諸島沖での衝突事件などの混乱を経ても相場の上昇傾向は続き、2011年には過去最高の480ドルに達しました。この一連の動きを受け、EUや日本がWTOに提訴。中国が敗訴したことで、2015年に輸出枠・輸出税は撤廃されました。同時に、西側でのリサイクル体制の整備や鉱山開発が進み、それ以降、「中国リスク」という言葉を耳にする機会は一時的に少なくなりました。
しかし、2025年2月4日、そのリスクが再び顕在化します。今回は中国発ではなく、米国の関税政策が引き金となり、中国がアンチモン、タングステン、レアアースに輸出許可制度を導入。日本も大きく“巻き添え”を喰らう形となりました。
今後の米中協議の行方は誰にもわかりませんが、「TACO(Trump Always Chickens Out)」と言われているように、最終的には何らかの合意がなされ、中国からの供給は程度の差こそあれ再開されると見ています。ただし、「戻ったから安心」ではなく、「次こそどう備えるか?」が問われているのです。
「脱中国」と言うのは簡単ですが、果たして中国以外に圧倒的な物量と柔軟性をもって中国の役割を担える国があるのか?たとえば2018年には、中国は西側にAPT・YTOを16,000トン(W換算)供給しました。一方で2022年は5,000トンほど。この供給量を賄える製錬設備を西側で新設し、需給に応じて稼働率を調整するのは、コストや継続性の面からも現実的とは言えません。
では、我々にできることは何でしょうか?
今回の教訓は、「川上原料の確保」に尽きます。原料さえあれば、外部の製錬や加工を通じて供給を確保することは可能です。ただし、供給が途絶えた際、西側の限られた精鉱・スクラップに需要が殺到すれば、その時に行動しても間に合いません。リサイクル率の向上は理想ですが、すでにスクラップは取り合いになっており、実際にはそう簡単にはいきません。強いて言えば、現在は環境面やコスト面の課題から西側でほとんど活用されていない低品位スクラップを日本国内で処理することや、西側で生産された精鉱の約50%が中国に流れている現状を踏まえ、それらの精鉱を西側で活用することには大きな意義があります。限られたパイを奪い合うのではなく、新たなパイを生み出すことが求められています。
少し夢の話になりますが、1980年代まで日本には小規模ながら10近いタングステン鉱山が存在していました。私自身にとって、国内鉱山開発はライフワークであり、今も諦めずにその可能性を追い続けています。再稼働へのハードルは高いですが、自前原料の純増という意味では有望な選択肢です。また、海外鉱山への出資も1社としては規模が大きくなりますが、日本コンソーシアムを組んで実施するなど、視野に入れるべきでしょう。自前の原料ソースが増えれば、製錬事業の拡大にもつながり、結果として自給率も高まります。これらの実現には、経産省やJOGMECなどの支援も積極的に活用すべきです。
いずれにせよ重要なのは、「中国依存をゼロにする」ことではなく、中国との共存、すなわち「依存に備える」体制を整えることです。つまり、自給率を少しでも上げ、いざという時に選択肢を持っておくということです。私自身の20年以上にわたる国内外の鉱山との取り組みや、リサイクルでの経験とネットワークを活かし、皆様の調達活動に貢献したいと考えています。
1980年代半ばに崩れたタングステンの自給体制は、40年を経て2025年に転換期を迎えました。10年後、20年後に「2025年2月4日が分岐点だった」と胸を張って言えるような未来を、皆様とともに切り拓いていければと願っております。