
私は1991年東京タングステンに入社し、東京4年、山形10年、富山17年、2回目の山形勤務3年目の勤続34年目になります。入社以来、技術・開発部門に所属し、多くの製品に携われてきたことを大変有難く感じています。タングステン、モリブデンは最先端技術に採用されるケースが多く、常に最先端の技術動向を注視しながら開発を進めることが大切だと考えています。
一方、最先端の技術は日々変化し、一度採用された製品でも次期で採用されるとは限らず、常に新しい製品を生み続けなければならない厳しさもあります。ただ、世の中の発展には欠かせない材料であり、今後も新しい製品を生み出し、社会貢献していきたいと考えています。
こんな私は若いころはサッカーに打ち込むスポーツマンでしたが、今ではスポーツから離れ、趣味は将棋を指すことです。最近、もっとも注目されている将棋棋士は藤井聡太七冠で、将棋のことをあまり詳しく知らない人でもご存じだと思います。そんな彼の凄さを示した「神の一手」をご存じでしょうか?
AIの発達により将棋も人がコンピュターに負けるようになってしまいました。
少し残念な気持ちもありますが、プロ棋士の凄さが身近に分かるようになったなどのメリットもあると感じています。将棋AIが発達した理由は、駒の配置などの情報からその局面でどちらが優位なのかを示すことができるようになったことと、そしてそれを学習できるようになったことです。
AIは、あらゆる手を進めながら、どれが最善手なのかを局面に点数を付けながら探っていきます。一方、人は全てを深く読むわけにはいかないので、知識や経験から有効な手を数手に絞りながら先の手を深く読み、最善手を選んでいきます。
神の一手と言われるのは、2020年6月28日91期棋聖戦第2局、渡辺明棋聖(当時)との一戦の58手目に飛び出しました。2二にある「金」の下の3一に「銀」を打った手がそうです。これを語ると長くなるので詳しくは省略しますが、ある程度の棋力ある人の第一印象もそうですが、プロ棋士でさえ、とても陣形が悪いので、初期段階で考えることをやめてしまうような手です。
実際、最強将棋ソフトでも4億手を読ませた段階では5番手にも挙がりませんでしたが、6億手を読ませると突如、最善手として現れる驚きの一手でした。当時七段であった藤井聡太棋士はこれを僅か考慮時間23分で指しました。一体、どのような考え方をすれば、このような手が指せるようになるのか、私には想像もつきません。
これだけ語ると私が幼いころから将棋を指していると思われるかもしれませんが、将棋を指したのは、小学4~6年生の期間だけで、それ以降はNHK杯などを偶にテレビで視聴する程度で実際に将棋を指すことはありませんでした。しかし、2005年に富山勤務になったのが転機の訪れでした。富山には将棋部がありました。といってもOBを含めた自分より高年齢の方が数名でしたが、仕事を終えた後に竜王戦の対局についてだったと思いますが、将棋部の方と喫煙所で話す機会がありました。その際に到底思いもよらなかったのですが、「一局指したいのか?」とのお誘いを受けて何十年ぶりかに将棋を指すことになりました。
今、考えると将棋部で段位二段くらいの上級者の方が私のような素人と指したいと思うはずがなく、どうにか私を将棋部に入れようとうまい作戦に完全に引っ掛かってしまったと思い返しています。
将棋は最後にどちらか一方が必ず「負けました」と言って終わりますが、その一言を言うのがとても悔しいので勉強して強くなろうとするのだと思います。実際、私も負けたくなくて、将棋の本を10冊以上は購入して棋力を磨きました。将棋部の方には16戦目くらいでようやく初勝利しましたが、実際はかなり手を抜いて指してくれたのだと思います。
それから何度か将棋を指す機会を経て、「将棋部のOB会を開くけど参加人数が奇数だから来てくれないか?」「何もしなくてもいいから将棋部の部長になってくれないか?」など話が進んでいき、将棋の魅力に取りつかれていきました。富山勤務時代は良く将棋を指していましたが、3年前に山形県に単身赴任になってからは、指す機会が減ってしまい、将棋の棋力も落ちていると思います。ただ、将棋を指すのは好きなので機会があれば、今後も指していきたいと思っています。
私の一番好きな棋士は羽生善治九段(現在)でして、若くして七冠タイトル保持者になったころのいわゆる羽生マジックと呼ばれるニュースなどを見て胸が弾みました。藤井聡太七冠は別格ですが、AIの出現がなければ、羽生善治九段が今でも一番偉大な棋士だと思っています(個人的な意見です)。
最近、思うのはAIの出現により将棋は進化して、今まで思いつかなかった手を発見できるようになってきましたが、逆に人が深く考える(悩む)ことが少なくなっていないかと不安に感じています。問題の答えを先に知ってしまうような感覚で、答えを知らない状態で問題を解こうとしない、これでいいのかな?と思うようになりました。
私も歳を取ってしまい、古い考えだと言われるかもしれませんね。タンモリ工業会の中でも将棋が好きな方がいらっしゃると思いますので、将棋を指しながら一緒にこのような話がしたいです。是非お声がけ下さい。
タンモリ業界にも、まだ発見されていない神の一手があるかもしれませんよ。(笑)