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地上の太陽をタングステンで実現

株式会社アライドマテリアル
代表取締役社長 山縣 一夫

第135号会報(2024年4月15日発行)

#巻頭言

年初から能登半島地震が発生しました。被災された皆様、未だに避難生活を余儀なくされている方々に心よりお見舞い申し上げます。

 

弊社の富山製作所も震度5強の揺れに見舞われ被害を受けました。休日返上で復旧に取り組み、設備メーカや施工業者さんの絶大なるご支援を頂き、早期に全面復旧することができました。元旦で工場も稼働していなかった為、幸い従業員の被災や火災等はありませんでしたが、もし稼働中であったら大きな被害が発生した可能性があり、想定外や反省点もあり、これらを教訓として会社としてのBCPの見直しを進めているところです。

 

さて、今回は「核融合」についてご紹介したいと思います。2020年度末に経済産業省が試算した化石エネルギーの埋蔵量は、石油の可採年数で54年、天然ガスは49年、石炭は139年となっています。一方で産業革命以降のこれら化石燃料の大量消費は、地球温暖化による気候変動などをもたらしつつあり、各国は2050 年までに風力、太陽光、水素、炭素回収などでグリーンエネルギー社会を創造し、やがて枯渇する化石エネルギーから脱却し、グリーン産業革命を成し遂げようとしています。

 

その解決策の一つとして注目されているのが、太陽の原理を活用した核融合技術です。核融合反応は太陽の内部で水素などの原子核が衝突しヘリウムなどに変わる反応であり、燃料1gで石油8トン分の大きなエネルギーを生み出します。これを地上で再現できれば、CO₂ を排出しないという優れた環境特性、高い安全性、ほぼ無尽蔵といえる燃料資源、かつ天候などに左右されない、人類で初めて手にする「持続可能な夢のエネルギー」となる可能性を秘めています。

 

日本では1980年代初頭にこの核融合の開発に着手し、1985年に実験装置が稼働しています。同年に平和目的のために核融合を実証する「ITER」(ラテン語で「道」の意)計画が米ソ首脳会議(レーガン、ゴルバチョフ)をきっかけに開始され、2006年に日・欧・米・露・韓・中・印の7極によるITER 協定が調印されました。

 

現在35か国が協力し、南フランスの建設サイト(サン・ポール・レ・デュランス)で50万KW の出力を実現する核融合実験炉の組み立てが進められています。昨年12月に小生も当サイトを訪問しました。

 

※昨年12月に南仏のITER サイトを訪問した時の写真(左から2番目が筆者)

 

180ヘクタールに及ぶ敷地に、世界中から集まった約6千人が建設に従事しており、その巨大な建屋群からなる壮大な施設の規模に圧倒されると共に、その意義を改めて感じた次第です。日本が分担する機器の一つに「ダイバータ」があります。これは核融合反応で発生するヘリウムや不純物を排出し、高熱負荷から真空容器等を守りプラズマを安定的に閉じ込めるための最重要機器の一つで、日本で開発された技術です。ITER 炉の中で最も強い熱を受け、その耐久性は宇宙から大気圏に突入する際の熱負荷と同程度のものを求められています。

 

ITER 計画に対する日本の窓口として、日本が担う機器・装置を製作してITER サイトに供給する役割を果たしているのは「国立研究開発法人 量子科学技術研究機構(略称:QST)」ですが、弊社は前身の日本原子力研究所の時代から取引があり、1999年からITER用タングステンの研究開発を開始しています。

 

ダイバータに使用されるタングステンはブロック形状で、粉末を圧粉、焼結後に塑性加工した板材を切り出して製作します。塑性加工されたタングステンは2000℃を超えるプラズマの高熱に長時間晒されると再結晶粒が生成・成長し、割れる可能性が高くなります。弊社ではプロセス・条件を長い時間をかけて見極め、試作を繰り返し、「微細な結晶粒を維持」する材料の開発に成功しました。この材料の熱負荷試験がロシアのエフレモフ研究所でITER 機構の要求を大きく上回る条件で実施されましたが、全てのブロックに「割れ」が見られず、ITER 機構及びQSTから「ITERグレード」として認証を受けるとともに、世界的に高い評価を得ることができました。現時点でも高熱負荷環境で「割れないタングステン」を供給できるのは世界中で弊社のみです。

 

実は「割れないタングステン」は弊社だけでは実現しえませんでした。ダイバータの受熱面はモノブロック(タングステンの製品名称)とその中に通された冷却管でユニット構成されます。モノブロックは冷却管を通すために中央に穴をあけ、穴の周囲には純銅のレイヤーを付けますが、タングステンと銅とでは大きく熱膨張係数が異なるため接合がうまくいきませんでした。この純銅とタングステンとの接合に卓越した接合技術を持つ会社との協力体制が実現したことで、「割れないタングステン」が初めて成立したのです。

 

ITER計画のロードマップで最初の節目となるのは2025年に予定される核融合反応「ファーストプラズマ」で、その後プラズマ制御試験が終了するのが2035年頃とされています。次のフェーズが反応制御と工学試験で、その後実用化へ向けた「原型炉」での実証、2050年頃「実用化への準備完了」と進む計画です。

 

研究開発開始から量産開始まで約半世紀と息の長い計画ですが、弊社としても未来の人類のための新しいエネルギーを実現させる世界的な核融合のビッグプロジェクトに参画し貢献できるという喜びがあり、この夢をご協力先様などと共にかなえたいと考えています。

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