1.緒言
エレクトロクロミックデバイス(ECD)は、電気化学的な酸化還元反応により、色が可逆的に変化するデバイスである。建物や自動車内への光や熱を任意に制御できるECDは、省エネルギーに有効な技術と考えられている。
三酸化タングステン(WO₃)は着色効率が高く、安定して使用できるエレクトロクロミック(EC)材料として広く研究されている。また、WO₃の色変化は可視光から近赤外光までの広い波長で行われるため、遮熱効果も期待されている。
WO₃のエレクトロクロミック反応を式1に示す。
WO₃(消色)+ xM⁺ + xe⁻ ↔ MxWO₃(着色)・・・・式1
ここで、M⁺は H⁺、Li⁺、K⁺、Na⁺などのカチオンであり、色変化はWO₃への可逆的なカチオンの挿入・脱離によって起こる⁽¹⁾。
WO₃膜の製膜は、スパッタや蒸着などの方法で行われており、ビル、航空機、自動車の窓などに利用されている。しかし、これらの製膜方法は真空プロセスであるため製膜コストが高く、デバイスも高価格となることが課題であった。そこで、WO₃の粒径を制御し、ナノ粒子化することで、低コストの塗布製膜によりECDを作製し、その特性を評価した。本検討は産総研との共同研究として実施し、ECD特性の評価は産総研で行ったものである。
2.実験
WO₃ナノ粒子を純水に混合し、1000rpmで2日撹拌後、ポリビニルアルコール(PVA)を添加し、7μm のシリンジフィルターで濾過した。得られたインクをスピンコーターでITO膜付きガラス上に塗布製膜した。塗膜のECD特性は、電解液に1.5 mol/kgのカリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(KTFSI)/ プロピレンカーボネート(PC)、対極に白金線を使用して電圧を印加したときの色の変化と着色効率(単位注入電荷量当たりの吸光度の変化量)を評価した⁽¹⁾。
3.結果と考察
図1にWO₃を塗布製膜したECDのWO₃の粒径と着色効率の関係を示す。粒径が100nm以上ではほとんどEC 特性を示さなかったが、小粒径化することで着色効率が向上し、10nm以下ではスパッタ膜(60 cm2/C)⁽²⁾よりも高い値が得られた。これは、粒径を小さくすることにより、着消色時にカチオンが粒子内を移動する距離が短くなるためと考えられる⁽³⁾。
図2に粒径約9nmのWO₃ナノ粒子(図3)を使用した膜の透過率を示す。電圧の印加により、可視光透過率が可逆的に変化した。消色時と着色時の色の差は長波長側で大きくなり、波長850nmでの透過率は消色時80%、着色時3%である。本研究から、粒径を小さくすることで、塗布製膜したWO₃ナノ粒子がEC特性を示すことが分かった。塗布製膜により、低コスト化の他、ECDの大型化やフィルム化が可能となるため、本技術によりECDのスマートウインドウへの応用が広がると期待できる。
参考文献
(1) C. Y. Jeong, H. Watanabe, and K. Tajima, Adhesive electrochromicWO3 thin films fabricated using a WO3nanoparticle-based ink, Electrochim. Acta, 389 138764 (2021).
(2) M. Kitao, S. Yamada, S. Yoshida, H. Akram, and K. Urabe,Preparation conditions of sputtered electrochromic WO3 films andtheir infrared absorption spectra, Sol. Energy Mater Sol. Cells., 25, 241(1992).
(3) R. C. Evans, A. Ellingworth, C. J. Cashen, C. R. Weinberger, and J.B. Sambur, Influence of single-nanoparticle electrochromic dynamicson the durability and speed of smart windows, Proc. Natl. Acad. Sci.U. S. A., 116, 12666 (2019).