1.緒言
積層造形技術(Additive Manufacturing:AM)は、レーザー・電子ビーム等で金属粉末を溶解・凝固させて複雑な形状の金属部品の製造を可能にする技術である。AMでは、これまで複雑な形状に成形・加工することが困難であった、タングステン・モリブデン等の高融点金属材料への適用が期待されている。粉末床溶融型の金属AM装置には20~100μm程度の粒径をもつ金属粉末が適用されるため、タングステン・モリブデン等の粗粒粉末への需要が高まりつつある。
粗粒タングステン粉末を得る方法に、原料となる三酸化タングステンにアルカリ金属成分を添加し、水素還元による化学気相輸送(Chemical Vapor Transport:CVT)反応により粒成長を促進させる手法が知られている。[1] 本研究では、添加するアルカリ金属元素及び濃度がタングステン粉末の粗粒化に及ぼす影響について系統的に調査し、その粒成長挙動について考察した。
2.実験方法
添加するアルカリ種を、タングステンの粗粒化効果が確認されているリチウム・ナトリウム・カリウムとし、それぞれを水酸化物の形態で種々の濃度で三酸化タングステンに添加した。還元後に得られたタングステン粉末について、走査型電子顕微鏡による形態観察および、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた粒度分布測定を行い、各アルカリ成分がタングステン粉末の粗粒化に及ぼす影響を評価した。
3.結果
アルカリ無添加の三酸化タングステンを、CVT反応が促進される条件で還元して得られたタングステン粉末に比べて、アルカリ金属成分を添加して同条件で還元したタングステン粉末は、いずれのアルカリ種においても顕著に粒子が成長し、粗粒のタングステン粉末が得られた。また、いずれのアルカリ種においても、添加量の増加に伴いD50径が増加する傾向が認められた。さらに、各アルカリ種の中では、リチウム添加系が最も粗粒化する傾向を示した。【図1】

図1. アルカリ水酸化物添加により還元したタングステン粉末
a)無添加 b)LiOH添加 c)NaOH添加 d)KOH添加
4.考察
アルカリ成分の添加により観察された粒成長は、還元過程におけるCVT反応が促進され、タングステン成分が移動・再析出したことによるものと考えられる。一方で、本系の粒成長は単純な均一成長ではなく、核生成と成長が組み合わさった不均一な過程として進行していることが考えられる。還元初期において、アルカリ成分が三酸化タングステン粒子表面に付着していることで、局所的に反応性の高い領域が形成され、これらが粒成長の核となる。還元の進行と共にタングステン成分がCVT反応により移動し、これらの核へ選択的に供給され、特定の粒子を中心に粒成長が進行したことが予想された。
5.結言
本研究では、アルカリ添加によりタングステン粉末の粒成長が顕著に促進され、各アルカリ種の中ではリチウム添加系で特に粗粒化が進行することが確認された。粒成長機構については、アルカリ付着三酸化タングステンを起点とした核生成と、CVT機構によるタングステン成分の移動・供給が組み合わさることで、選択的な粒成長が進行する可能性が示唆された。
今後は、アルカリ種による粗粒化挙動の違いについて詳細に検討し、粒成長機構のさらなる理解を進めることで、目的粒径に応じたタングステン粉末の制御につなげる。
[1] Erik Lassner and Wolf-Dieter Schubert (1999) Tungsten, New York: Kluwer Academic/Plenum.