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山の記憶と企業の財産

パナソニックライティングデバイス㈱
デバイス製造部 冶金製造課 課長 笠原 昌紀

第143号会報(2026年4月18日発行)

#寄稿

高校では山岳部に所属しており、新歓、歩荷訓練×2、夏合宿、ビバーク、冬合宿、春合宿と、毎年20座ほどの山に登ってきま したが、すぐに思い浮かぶ風景は、山頂の眺望よりもOBの差し入れのスイカ、玄米、ペットボトルのコーラといった、1週間分の 荷物をさらに重くさせる有難いものだったり、遭難を想定しテントの外張を寝袋の上にかぶせて就寝するビバーク訓練の日に限って雨だったりしたことです。

 

スマホの無い時代なので、残っているのは”写ルンです”でとった写真のみですが、何を撮ったかはほぼ覚えておりません。北岳・奥穂高・槍ヶ岳に登った記憶は朧としていますが、苦しさや馬鹿げたことのほうが、山の記憶として強く脳裏に焼き付いているという事実は変わらず、社会人生活もまた、そんな山の記憶と似た側面を帯びていると、勤続18年目の今、つくづく思います。

 

例えば同期が授かり婚のための退寮前日にBarで語り合ったこと。年末の解放感からか粗相をしてしまったこと。お客様と5次会したこと(アフター5が多いですね)。上司のお子さんが第一志望の大学に合格したという話。時には失注したという話。これらの記憶は私の頭の中にだけあって、他人にとってはとるに足らない話になってしまう事でしょう。

 

しかし「記録する」という営みの重要性を再認識させてくれます。写真に残っていない事柄の方が記憶に残る、とはよく言われますが、写真や部報を見返してみると、鮮明に思い出す経験も多くあり、原稿を書きながらスマホに入っている写真を眺めていると、あの時感じた色々な事が次々と蘇ってきます。次の帰省の際には、物置部屋に収納してある学生時代のモノを物色してみようと思います。

 

私たちが所属するタングステン・モリブデン工業会には、会報やAPT価格推移といった過去の記録が残されています。流石に直近の鉱石値上がりは脳に残っていますが、価格が安定していた頃のチャートを見たら「当時はLED電球が普及し始めてタングステンやモリブデンの注目度は低かったな」と懐かしく感じる方もいらっしゃると思います。振り返れば、記録を残すことの意味は時代の変遷にも通じます。人の流動性が高くなった現代において、私たちがしてきたことを第三者が読み取れるように残す ことは、事業の存続にとって必須となっていますし、日々の活動の記録こそが給料という対価を頂いて実践する価値のあることだと改めて実感している次第です。

 

趣味の話に戻ります。最近は家族と日帰りで登下山するか、山小屋で1泊する程度になっていますが、最安ルートを検索してた高校時代とは打って変って、最寄りの駅でレンタカーを借りて登山口へという大人を享受したスタイルになってしまいました。そしてそれは私の半ペーパードライバーを思い知る機会でもあります。峠道だけでなく一般道にも苦戦を強いられ、「次はバスで行ける山へ」と心の中でつぶやくこともしばしばですが、返す頃には運転が楽しくなり次はどの山へ行こうかと談笑しながら帰路につく、そんな循環を繰り返しています。

 

そこで気づいたのは、車の値段と性能が結びつくということでした。安価な車は山行のコストパフォーマンスを提供し、高価な車は長い道のりでの力強さを発揮し運転技量が上がったと勘違いさせてくれるほどでした。自動車を買う事になったら、私も背伸びをした選択をするべきと思える体験でした。自動車だけでなく、素材の選択にも同じ価値観があり、メーカーに従事している以上その様な価値ある素材を提供し続けたいと思います。そのために言語化できる力を身につけ、見込み顧客にも伝わる共通の言葉を磨くことが、私たちの強みを社会に届ける道になると考えています。

 

この3月、退任の挨拶を受けた方の言葉が胸に残りました。「従業員が働きやすく、お客様を喜ばせることを第一に」と。その言葉は、私の公私の行動指針と重なり、“私たちは周りの人々を喜ばせるための努力を惜しまない。それを実現するためには、手段としての記録化、言語化、図示化を徹底することが不可欠だ。写真は単なる記憶の証拠ではなく、言葉と図示とが結びつくことで、過去の経験を組織の資産として機能させる。私たちの業界で働く者にとって、これが「給与以上の価値を生む実践」になる。”と信じております。

 

まとめとして、“一つ、公私において、周りの人に喜んでもらえるよう精進する。 二つ、そのための手段として、可能な限り言語化、文書化、図示化を日常の習慣とする。 三つ、価値ある選択を重ね、40代の目標を具体的な 行動として掲げる。”

 

会報の執筆を機にこのような事を考えた次第です。

 


写真:近畿地方最高峰 八経ヶ岳山頂にいた鹿。
驚いたものの、例のごとく写真を見るまで思い出せず。

 


写真:噴火で登れなくなったり登れたりする前に行った阿蘇山。

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