
現在、「Tsunami」や「Sushi」など世界でも通用する日本語の単語が増えています。そこに、筆者は日本語である「生きがい」という言葉が、「IKIGAI」として世界でも通用する日本語の単語のひとつになっていることを最近、知りました。広辞苑によれば、生きがいとは「生きるはりあい。生きていてよかったと思えるようなこと」と定義されています。つまり、人にとって「生きる価値や意味」を与えるものである、と捉えることができます。
そもそも「IKIGAI」という言葉が世界に広く知られるようになったきっかけは、スペイン人のFrancesc Miralles氏とHéctor Garcia氏が共著し、2016年春に出版された「ikigai」という本でした。では一体何が、そこまで人々をひきつけているのでしょうか?
日本語を母国語とする私たちは「生きがいの言葉の意味」を深く考えたことはないのではないでしょうか?けれども外国には「生きがい」にぴったりくる訳語が存在しないため、「ikigai」著者たちは詳細にその考え方を解説しています。外国語には幸福感(Well-being)を表す言葉が他にもありますが、「生きがい(IKIGAI)」という日本語は、「利他的に社会に貢献することを通して感じる幸福感」というニュアンスで、とても魅力的に欧米へ伝わっているようです。
Fig.1に「生きがい(IKIGAI)」のベン図を示します。簡単に言うと、「あなたが好きなこと」「あなたが得意なこと」「社会が必要としていること」「収入を得られること」が重なり合った中心に「生きがい」があると説いています。このコンセプトが世界の人々を強く魅了し、そして筆者も強く共感しました。
「あなたが好きなこと(What you love)」に熱中するとき、幸福度が高いことが知られています。強い熱中・集中状態のことを「エンゲージメント」または「フロー」「ゾーン」と言います。ポジティブ心理学の創始者であるセリグマン教授によると、エンゲージメント(フロー、ゾーン)は幸福感を形成する5つの要素(PERMA:Pleasant emotion, Engagement, Relationship, Meaning, Accomplishment)のうちの一つです。
「あなたが得意なこと(What you are good at)」とは、強みです。「自分の強みを明確に持っていて、それを生かせる人は、幸せな傾向がある」ということは多くの学者も認めているところです。
また、「社会が必要とすること(What the world needs)」を行っている状態は、利他的で、親切で、思いやりのある状態ですが、このような利他的な行動が幸福度を高めることは、さまざまな研究により検証されています。
さらに、「収入を得られること(What you can be paid for)」が幸福度を高めることも知られています。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授によると、年収が7万5000ドルになるまでは、年収と感情的幸福は比例する傾向があるのに対し、年収が7万5000ドルを超えると、もはや年収と感情的幸福の間に有意な相関は見られなかったそうです。つまり、一定の収入になるまでは、収入が増加するほど人は幸せになっていきます。
このようにFig.1「生きがい(IKIGAI)」のベン図に描かれた4つの円は、いずれも幸福度を高めるための要素なのです。なかでも、4つの円が重なった部分は、幸福度に寄与する4つの要因が重なっているのですから、特に幸福度の高い領域と言えるでしょう。楽しくて仕方がなく、強みを生かせて、しかも社会に貢献し、お金までもらえるというのですから、幸せでないわけがありません。
さて、筆者はこの「生きがい(IKIGAI)」の定義やベン図を知る機会を得て、あらためて、母国語とする日本の現状を見つめ直してみました。
人類が20世紀に目指してきた「右肩上がり、一過性」の経済モデルは、21世紀の今、もはや持続できなくなっていることは明白です。タングステンを含む資源は有限であり、無尽蔵に使って捨て続けることはできません。CO2排出量の増大を主因とした気候変動の影響は地球全体に及び、早急な削減が必要です。右肩上がりの経済成長を支えてきた世界人口の増加はすでに鈍化しており、いずれ減少に転じます。これらのことより、人類全体が新たな成長モデル・価値創造モデルに転換する必要に迫られているのです。
日本はすでに2010年をピークに人口が減り続けており、国全体の規模を考えれば縮小ですが、見方を変えれば「一人ひとりの希少価値が高まる時代」と言えます。デフレ経済からインフレ経済に移行し始めたこれからの時代を、人の数ではなく「個」の質、付加価値に目を向ける “好機” と捉える、新たな発想を持つべき時ではないでしょうか。
そのために、筆者は、「生きがい(IKIGAI)」という日本人が育んできた幸福な生き方を思い出し、一人ひとりの個人にとってのIKIGAIを理解し、互いのことを尊重し、集団として大切に育むことができる社会に戻れれば、本当に素晴らしいことだと考えました。つまり、企業や職場・社会が「生きがい(IKIGAI)」の場=「働きがい」の場になるのです。そして、筆者も先行きが見渡せない不確実な未来に、価値は有限ではなく無限に存在することを信じ、みんなが「生きがい(IKIGAI)・働きがい」のある企業や職場・社会で存分に創造力を発揮しながら価値を生み出し続けている姿(価値創造の民主化)を目指していきたいと思います。
Fig.1 「生きがい(IKIGAI)」のベン図
Ikigai … A JAPANESE CONCEPT MEANING “A REASON FOR BEING”
出所:https://www.weforum.org/stories/2017/08/is-this-japanese-concept-the-secret-to-a-long-life/