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役員寄稿   「タングステンは一体どこから来たのか」 
  株式会社アライドマテリアル
代表取締役会長 
牛島 望 
 我々が長年にわたって、お世話になっているタングステンという材料、そもそもどこで生まれ、どのようにして地球の鉱物資源となったのかということを、ご紹介します。

1、世界各地のタングステン(以下W)鉱山を訪れて気付いたこと

 今世紀に入り、1990 年代までは自国にとって、外貨獲得のための貴重な輸出品だったタングステン粉末を、中国は逆に輸出制限の対象とする方向に舵を切りました。貴重なレアメタル資源であり、より付加価値を付けた上でなら輸出を奨励するとの方針に転換したのです。当社グループにとっても一大事であり、その対応策として採られたのが、富山での超硬スクラップからのWリサイクル事業と、米国でのW鉱石精錬+ リサイクルプラントの設置でした。

 中国は付加価値の低いW鉱石は禁輸対象にしていることから、中国以外の鉱山からW鉱石を調達しなければなりません。当時、小職は各地のW鉱山を訪問して調達ルートの開拓に取り組みました。最初の訪問先は2003 年、オーストリアWBH 社のミッタジル鉱山。生まれて初めての鉱山。坑道入口から数km 先の掘削点に至る途中に照明は全く無く、車での移動。試しに車のライトを消してもらった時の闇黒、周囲が全く何も見えなくなる恐怖を初めて体験しました。この時の恐怖感と、坑道の出口が明るく見え始めた時の喜び・安堵感は今でも忘れられません。ちなみに、ミッタジル鉱山は、ヒトラーの別荘として悪名高きベルクホーフの所在地、ベルヒテスガーデンから至近で、実に風光明媚な観光地の真ん中にありました。

 ミッタジル鉱山では、地下の粉砕プラント、坑道出口の選鉱プラントとも自動化が徹底されており、驚かされました。同鉱山では、灰重石(シーライト)、バイプロとして金(Au)と錫(Sn) が出るとのことでした。その後、ベトナムのヌイパオ鉱山、カナダ カンタン鉱山、ロシア プリモルスク鉱山、ポルトガル ベラルト鉱山、2010 年代には英国へマドン鉱山を訪問しました。ポルトガルのベラルトと英国へマドンが鉄重石(ウルフラマイト)を産し、他は灰重石鉱山だが、どの鉱山でも錫(Sn)、少量の金(Au)が一緒に採掘されること、さらに、大半で蛍石(CaF2)がバイプロとして採掘されていました。不思議に思いながらも、その理由を調べることもなく現在に至っておりました。

2、ITERプロジェクトから学んだことを出発点として
 一昨年12 月に当社の酒田製作所でITER 用Wモノブロック加工用ラインの披露式典を開催しました。核融合とは何かという基本的な知識が全く無かったので、一昨年11 月にWiKi 等で付け焼刃の調査をし、その深遠さには本当に驚かされました。

 原子を構成する陽子と中性子のうち、陽子と陽子を高温で衝突させることにより重水素が生成され、電子とニュートリノが放出される。正に無から有が生じる感覚。同じく、重水素と3重水素を高温で衝突させれば、何とヘリウムと大量のエネルギーとともに中性子が放出される。異なる原子番号の元素ができてしまう不思議さ。このエネルギーを発電に活用するのが核融合による発電であるとのことを初めて知りました。

 今回の調査の途中では、微積分方程式やら行列式やら、とてつもなく難解な数式が随所に出て来て閉口しましたが、この稿では途中の数式・計算は割愛して、結論だけを記述するのでご容赦下さい。但し、天才物理学者アインシュタインが考案した有名な下記数式の意味は認識しておく価値が大きいです。
  E= mc2 ( E:エネルギー  m:質量  c:光の速度 )
  C:光の速度、光速はよく1秒で地球7.5周と言うが、即ち秒速30万km。
    時速10.8 億km、無理くり音速(マッハ)に換算すれば882 千となる。
    正に超膨大な数字。Cの2乗となれば、更に途方も無い数字となる。

 よって、核融合で増える原子の質量mが、たとえ僅かであっても、Cの2乗をかけて得られるエネルギーが非常に膨大なものになることがわかります。重水素と3重水素を高温で衝突させることで得られるエネルギーは、同じ質量のウラン(U)の核分裂反応で得られるエネルギーの4.5 倍とも言われます。

 脱線しますが、光が1年で届く距離を1光年と呼ぶのはご承知の通り。この距離は9.5 兆km。太陽系の近隣で最も近い恒星系は、ケンタウルス座と言われており4.3 光年の距離で41 兆km も離れています。光で4.3 年かかるということは、マッハ20 で成層圏を飛ぶと言われるロケットなら、その44.1 千倍(882,000 ÷ 20)の189,300 年もかかります。ほぼクロマニョン人等新人類が誕生してから現代までの時間に相当。往復となれば40 万年。まさか寿命40 万年の高等生物は存在しないでしょう。よって、宇宙人が地球に来訪or 来襲する可能性は限りなく低いと言えます。UFO が実在するなら人間の所業か隕石・流星の類だと見るしかありません。

 本題に戻ります。ITER での核融合は、実験炉で高温のプラズマを発生させ、一定時間持続させれば、次ステップとして、発電に繋げて行くことになります。カーボンフリー、核爆発・核汚染リスクフリーの夢の発電です。実際の発電が普及するまでには20 年単位の年月を要するかもしれませんが、ビジネスの拡大に期待がかかります

 一方、自然界の核融合は、太陽をはじめ、銀河系だけで2000 億個を数える恒星の中で常時行われています。太陽の場合、水素燃焼により、中心部の温度は約1600 万度、4つの水素原子(4H)から1つのヘリウム原子(He)を生み出す核融合が常に行われています。太陽は、誕生してから46 億年が経過していますが、質量や保有水素量から計算される推定寿命100 億年の半分にも至っていない壮年恒星と言えます。従って、中心部の温度も核融合の進化も未だ比較的未進化の状態にあります。

 そこで、身近な太陽という一恒星からやや離れて説き起こします。宇宙のはじまりとされるビッグバン直後、宇宙にはH、 He と微量のリチウム(Li)しか無く、宇宙誕生後3億年ほどで恒星が誕生し、中心部の温度が250 万度を超えると核融合が始まったとされます。初期に誕生した恒星群は太陽とは比較にならぬほど半径、質量の大きい巨星が多く、内部は高温だったとされています。水素燃焼による高温化(2000 万度)と核融合により、H、He、Li 以外の炭素(C)、窒素(N)、 酸素(O)が生成されました。特に、太陽質量の8倍より重い恒星の場合には、中心部の温度が6~9億度に達し、酸素(O)からシリコン(Si)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)等が続々と生成されました。ここで不思議なことに、原子量16 の酸素(O)から原子量28 のシリコン(Si)へ、更にSi から重い、原子量56 の鉄(Fe)へと、一足飛びに生成が続くことです。しかし、Fe の生成までで、恒星内部での核融合は打ち止めとなります。

 Fe で核融合が打ち止めとなる理由は、Fe の原子核が物理的、化学的に最も安定していて、Fe どうしの核融合はできず、更に重い元素を作り出すためのエネルギーを得られないためと言われています。核融合プロセスでは、原子量56、比重7.9 のFe までしか生成できないのであれば、原子量182、比重19.3 のWはどうやってできたのでしょうか。

3、太陽系・地球の誕生は宇宙誕生から92 億年も経っていた
 昨年、富山県の砺波市美術館(チューリップ園に隣接)で開催されていた、『138 億光年宇宙の旅』という写真展を大変興味深く拝観しました。太陽や太陽系の諸惑星だけでなく、銀河系の星雲、彗星等、NASA が撮影した、大変迫力のあるカラー写真展でした。

 特に印象に残ったのは、地球から5500 万光年(9.5 兆km の5500万倍!)離れた、M87 銀河の中心にあるブラックホールの影の写真です。ブラックホールは全く光を発しないので、他の明るい天体をバックにした影だけが撮影可能で、2019 年にNASA が撮影に成功したもの。このブラックホールの質量は太陽質量の65 億倍、半径195 億km と途方も無く巨大で重い天体。

 しかし、この半径195 億km、光の時速10.8 億km なら18 時間の距離であり、質量とのバランスでは決して大きくありません。太陽と同じ質量でこのブラックホールを作ったと仮定すると、僅か3km の半径になってしまうとのこと。太陽の半径は70 万km なので、同じ質量を保ったまま、23 万分の1の大きさに圧縮されたものが、ブラックホールということになります。ブラックホールがいかに激甚に収縮してできたもので、その重力がいかに大きいかが理解できます。太陽が決して大きな恒星ではないことも。

 更に、この展覧会のタイトル『138 億光年宇宙の旅』は、言うまでもなくビッグバンにより宇宙が誕生してから138 億年が経過していることを意味しています。先述の通り、地球を含む太陽系の年齢は46 億歳であり、丁度宇宙年齢の1/ 3、宇宙が誕生してから92 億年も経ってから生まれたのが太陽であり、地球です。92 億年の間には誕生して進化し、滅んで行った恒星、それを取り巻く惑星の数も膨大です。この事実がWの誕生にとっても極めて重要です。ブラックホールも巨大な恒星が滅んだ後の姿であると言われています。

4、Wの大半は古い恒星の晩年に生成されていた
 宇宙初期に誕生した恒星は太陽質量の数十倍以上の巨星が多く、水素を大量に消費してしまうため、数百万年で寿命を迎えていたとされます。一方、太陽程度の質量しかない小中型恒星は数十億年~ 100 億年の寿命となりますが、ここで、その寿命の迎え方をざっくりと記述しておきます。太陽の余命は気になりますが、100 億年の寿命に対して46 億歳なので、まだまだ心配ご無用です。

(小型恒星の晩年)
   ① 恒星中心部で順調に水素燃焼・He 生成により数十~ 100 億年輝く
 → ② やがて水素枯渇 → ③ He が中心核・水素が外層の構造に
 → ④ 水素燃焼場所が外層に → ⑤ He には中心核を支えるエネルギー無く重力収縮
 → ⑥ 重力エネルギーにより水素燃焼領域の温度上昇
 → ⑦ 高温化によるエネルギー上昇 → ⑧ 星の外層が大きく膨張
 → ⑨ 漸近巨星分枝化 → ⑩ 中心核温度1億度へ上昇
 → ⑪ 中心核He からCとOに → ⑫ 外層で水素燃焼再開・膨張
 → ⑬ He層質量増大 → ⑭ He 燃焼 → ⑮⑫~⑭ 繰り返し
 → ⑯ 白色矮星(わいせい)として寿命を迎える。

 このように、小型恒星の晩年、⑫以降で、再び高温環境となり、核融合とは異なるプロセスで新たな元素が生成されます。余剰中性子の捕獲による吸熱とβ崩壊(原子核内の中性子が陽子になる)の組み合わせです。1段ずつ中性子を捕獲し、β崩壊により原子番号が1つ上の原子にゆっくり上がっていく(sプロセス:slow なプロセス)が行われたと推定されています。このsプロセスにより、原子番号83 のビスマス(Bi)までが作られると言われており、原子番号74 のWもほぼ半分はこのプロセスで生成されたと考えられています。Wと共に当社ビジネスのもう1つの柱である、原子番号42 のモリブデン(Mo)は大半がsプロセスにより、ニオブ(Nb)から生成されたようです。

 太陽質量の8倍以上の大型恒星の場合には、先述の通り、核融合反応の進展により、Fe が生成され、中心核となります。その後は次のプロセスで寿命を迎えます:

(大型恒星の晩年)
    ① Fe の中心核が冷えて収縮 → ②収縮のため逆に高温化(40~ 50 億度)
 → ③ 大エネルギー光子によりFe がHe と中性子に分解
 → ④ 温度急降下 → ⑤重力崩壊により中心部に物質集中
 → ⑥ 中心部に中性子の塊生成(中性子星誕生)
 → ⑦ 中性子が中心に落ちてくる他の物質を跳ね返す
 → ⑧ その衝撃波により超新星爆発を起こす → ⑨ Fe 以外の物質は宇宙空間へ
 → ⑩ 中性子星として残るか、太陽質量の30 倍以上の巨大恒星は重力崩壊を継続してブラックホールとなって寿命を迎える。

 ⑧の超新星爆発では、Fe 以外の物質が宇宙空間から中性子を獲得(吸熱)し、Fe より重い金属を激甚なスピードで生成(r プロセス:rapidなプロセス)します。sプロセスが中性子捕獲とβ崩壊を交互に繰り返しながら1段ずつslow に階段を上がって行くのに対して、rプロセスは数多くの中性子捕獲を行った後、数回β崩壊を繰り返す形でrapid に生成を進めます。但し、超新星爆発で得られる中性子の量は十分ではなく、原子番号56 のバリウム(Ba)までしか作れず、原子番号74 のWには届きません。

 ところが、2017 年、つい最近になって、⑥でできた中性子星が他の中性子星と合体する際に、大量の中性子が捕獲され、激甚なr プロセスが一機に進み、Wどころか、原子番号79 の金(Au)、92 のウラン(U)までが作られることが確実になりました。宇宙で起こったイベントの記録は刻々と更新されています。いずれにしろ、大型恒星晩年の超新星爆発だけでなく、晩年を迎えた恒星どうしの衝突、諸惑星の衝突等で、宇宙空間にWを含む諸々の元素を含んだダストが大量にばらまかれてきました。

 ちなみに、核融合による元素の生成や、この中性子捕獲やβ崩壊の意味合いがイメージできなかったので、グループ会社のエンジニアに核図表なるチャートを紹介頂きました。周期率表は270 ほどの安定元素だけを分類して、陽子数を原子番号にして並べたものですが、核図表は1万にも及び、同位体を含む全ての元素を縦軸中世子数、横軸陽子数のグラフに配置したもの。総務の方にご苦心頂き、A1 用紙3枚に印刷頂いた巨大なチャートだが、陽子数、中性子数だけでなく、崩壊しない安定核かどうか、非安定核の場合には崩壊までの半減期も色分けで分かるようになっており、この稿の記述に大変重宝しています。

5、Wが地球に届くまで
 以上で、Wをはじめとする重い金属が、古く、既に滅亡した、太陽とは別の恒星の晩年に生成されてきたことが分かりました。それでは、宇宙でできたWがどのように地球に届いたのでしょうか。まずは太陽と地球がどのようにできたかです。

(太陽の形成)
 太陽の組成は水素(H)90%、ヘリウム(He)9%、その他1%ですが、これは宇宙全体の組成とほぼ同等のようです。形成のためには、宇宙に散らばっていたH とHe の分子雲を凝集して恒星と成せば良い訳ですが、必要とされる水素の量は膨大であり、分子雲の大きさは太陽直径の100万倍~ 1000 万倍を数百万分の1に収縮させたことになります。そのエネルギーの出所ですが、決定的なことは現代科学でも未だに100%は解明されていないようです。考えられている候補は、①他の恒星の超新星爆発による分子雲圧縮、②大質量恒星末期の星風による圧縮とその後の超新星爆発、③分子雲どうしの衝突による星合成の余波等が可能性として提示されています。太陽形成のタイムスパンは数百万年とされています。活発な水素燃焼により、原始太陽は現在より数十倍も明るかったとされます。

(地球の形成と組成)
 宇宙と太陽の組成はHとHe で99%ですが、我らが地球(地殻)の組成は、酸素(O)47%、シリコン(Si)28%、アルミ(Al)8%、鉄(Fe)5%、カルシウム(Ca)4%が上位5元素で92%を構成。宇宙では圧倒的存在のHは僅か0.14%で すが第10 位、He は超微量でカウント外、主役のWは0.00015%で第55 位、金(Au)は更にその1/400 の第75 位。

 H とHe がこれほど少ないのは、地球の重力が木星や土星等外回りの惑星と較べて圧倒的に小さく、初期に獲得できなかったためと言われます。また、地殻で酸素が圧倒的に多いのは、大半の鉱物資源が酸化物で構成されているため。また、W の存在度の低さ(レアさ)にも、あらためてため息が出ますが、酸素の多い大気と水、このような地殻組成に恵まれたお陰で、我々生き物がこの星で生きていけるのです。

 本題に戻ります。太陽系惑星形成期において、様々な星の残骸からできた星雲ガスと、大きさ1μm 程度のダストの質量比は約100 対1 とされています。ダストの密度が上がるにつれ、ダストの自己重力が効き始め、原始太陽の潮汐力を上回るとダスト層が分裂を始めます。分裂塊の中でのダストどうしの衝突により、10km サイズの微惑星に成長。太陽系初期には、このサイズの小惑星が100~1000億個存在。諸惑星のうち、地球は太陽から3番目の位置にあり、固体粒子の密度は高いが質量が小さいので重力も小さく、上述の通りH とHe の獲得量が少なかった。形成初期は、微惑星の衝突・集積による熱エネルギーで表面の岩石は溶け、1000 度以上のマグマオーシャンと呼ばれる状態でした。中心部には重いFe が沈下し、コアを形成。外周部にはカルシウム(Ca)、アルミ(Al)等を含むケイ酸塩(SiO4)凝集物を中心にマントル、やがて花崗岩等火成岩で地殻を形成。

 当初の大気は、マグマオーシャンから発生した水蒸気、二酸化炭素、メタンだったと推定されています。重要なことは、誕生後6億年程度で、地球には海が存在していたことです。海中のカルシウム(Ca)イオンと大気中の2酸化炭素が反応して石灰岩(CaCO3)を形成して火成岩の上に地層を形成し、大気中の2酸化炭素は除去されていきました。さらに、シアノバクテリアが海中で発生し、光合成を開始。大気の成分は窒素(N)と酸素(O)が主体になり、生物が棲めるようになりました。

 以上のことから、宇宙のガスに紛れ込んだダストや、できたばかりの地球に次から次へと衝突した小惑星・隕石に含まれたごく僅かなWが地中で鉱脈を成し、貴重な資源を形成したことになります。しかし、地球に於いても、Wは生成されています。それは放射壊変によるもので、半減期の短い金属がWに放射改変する現象によります。例えば、原子番号72、原子量182 のハフニウム(Hf)は、半減期が900 万年と短く原子量182 のWに壊変したことが判明しています。地球誕生から46 億年経過しており、現在では、Wに限らず、放射性物質以外のほとんどの物質は半減期を超えて安定核になっています。

6、Wはどのように地球の資源になったのか
 前項の地球の形成で述べましたように、鉄(Fe)は、地球の中心核コアを形成して現代に至っています。コアの形成期に、親鉄性で比重の重い金属は大半がコアに溶け込んだとされますが、Wやモリブデン(Mo)、金(Au)、錫(Sn)も親鉄性金属と言われており、相当量がコアに溶け込んだと思われます。外側のマントル内にも重たい金属類は残りましたが、アルミ(Al)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)等親石性元素を含むケイ酸塩(SiO4)凝集物中心にマグマを形成。

 マグマから花崗岩等ができる場合、高温高圧のマグマ水(鉱化流体)は水分、フッ素(F)、炭酸ガス(CO2)等の揮発成分と、珪酸(Si(OH)4)、アルカリ、アルミナ、鉄、錫、金、W等多くの金属を溶かしこんでいます。このマグマ水は花崗岩の頂部に集まり、強力な蒸気圧により周囲の岩石の断層等の割れ目に浸入し、途中で冷却により、未だ高温(~ 450℃)の熱水となります。

 この熱水が地表に近い所で石灰石(CaCO3)や苦灰石(CaMg(CO3)2)と遭遇した場合、反応して鉱石スカルンを形成します。スカルンとは、熱水と石灰石のカルシウム(Ca)と苦灰石マグネシウム(Mg)が反応してできた鉱物の総称です。このスカルンに、主役であるWや錫(Sn)、蛍石(CaF2)が伴われて埋蔵されることになります。具体的に灰重石の場合には以下の化学反応式が示されます:

2CaCO3 + Na2WO4 + SnCl4     →   CaWO4  + SnO2  + 2NaCl  + 2CO2
(石灰石) ( タングステン酸ソーダ)(塩化錫)  (灰重石)  (錫石)  (塩) (炭酸ガス)
   
 これに加えて、熱水中のSiF4(フッ化珪素)が、石灰岩中のCa と合体してCaF2( 蛍石)となる反応もスカルン鉱床で頻繁に行われおり、W、錫と蛍石は相性が良く、一緒に埋蔵されているケースが多いです。というより、錫の鉱山で蛍石や、マイナーなWが随伴して採掘されるケースが多いと言うべきです。

 また、熱水が石灰石や苦灰石に遭遇しない場合でも、花崗岩中で冷えて固まれば鉱脈を形成します。そこで採掘されるのが、鉄マンガン重石(ウルフラマイト(FeMn)WO4)です。不思議なことに、ここでも錫と蛍石が一緒に採掘されるケースが多いです。

 それでは、何故Wと錫(Sn)は相性が良いのか。これは、今回の調査でも明確な答えに辿り着けませんでした。蛍石はフッ化珪素(SiF4)とカルシウム(Ca)が合体するだけなので、熱水周辺の地球内部事象によるものでしょう。しかし、錫は恐らく宇宙からの縁によるものと思われます。今回の調査では、Sn の不思議さが際立ちましたが、W との相性の良さに関係するかもしれない事項を列挙します。

 ① Sn は原子番号50、即ち陽子数50 個、中性子数69 個で、原子量は合計119 個も有りながら、比重は7.3 とFe の7.9 より軽い。ここまでの説明で、恒星の中の核融合は原子番号26 の鉄(Fe)までで、それ以上は恒星の晩年に生成と説いてきましたが、Fe の中性子数は30、原子量は56 であり、Sn の半分でしかない。不思議です。

 ② Sn の鉱石は錫石(SnO2)が大半ですが、石英(SiO2)鉱石とフォーメーションを組んで鉱脈を形成するのがほとんどであり、そこにW(CaWO4 や(FeMn)WO4)が随伴されています。Sn が酸化物になったのが、熱水が冷えた後であるとすれば、400℃を超える高温の熱水の中で、融点232℃のSn は流体状態だった可能性があります。であれば、随伴していた重いWやSi 等を巻き込んで花崗岩の割れ目に入り込み、冷却後は一緒に酸化物となって鉱脈を形成したとも可能性も想像できます。このあたりは、更に調査してみたいです。
 原子記号Wは、ドイツ語のWolfram の頭文字に由来していることはご承知の通り。18 世紀の人々が錫鉱石を精錬する際、錫と合体した重い金属(タングステン)が邪魔をして、まるで錫を貪り食ってしまう狼のよだれのようだとの比喩から来ている。実感が持てます。

 ③核図表によると、Sn の陽子数50 は超ラッキーナンバーで、魔法数と呼ばれるそうです。陽子がこの数であれば、原子はきれいな球形をなすので安定して放射崩壊等しにくくなる。確かに、錫は陽子50 で中性子の数が異なる同位体を39 元素も持ち、全元素中最多。内9元素が安定核で、これもダントツの最多です。Sn は核図表の中心部に万里の長城のように長く手を広げたような恰好になっており、Sn より原子量の多い元素が生成されるSプロセス、Rプロセス双方の中性子捕獲を阻害した可能性があります。

 ④実際、Sn より重く、原子番号の大きな元素で、Sn の存在度を超えるのは原子番号82 の鉛(Pb)だけです。Pb の陽子数82 も、50の次の魔法数です。陽子数50 と82 の狭間に存在する元素は、主役のW(陽子数74)、タンタル(73Ta)、ハフニウム(72Hf)、プラチナ(78Pt)、金(79Au)、水銀(80Hg)等が存在感はありますが、資源としての存在度は極めて小さく、これ等の貴金属、レアメタル重金属の希少価値を高めるためにSn が守りを固めたのではないかと思われるほどです。

 これらのことから、以下のようなプロセスでW鉱石は地殻中に形成されたのではないかと想像します。地球形成時、親鉄金属のSn、W 等はFe と一緒にコアを形成しましたが、一部はマントル中に残り、更に一部は高温高圧水のマグマ水の中で流動。その中で、存在度(量)が圧倒的に多いSn が、W や金(Au)等の微量元素を半流体の中に巻き込んで上昇し、花崗岩上部または、花崗岩と石灰岩接触部に鉱脈を形成した。あくまでも想像です。

 以上、大変長々と記述しましたが、素人調査の結果であり、誤解や曲解も多く含められていると思います。遠慮なさらずにご教示・ご指摘を頂ければ大変有難いと思います。宜しくお願い致します。
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