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寄 稿
  「タングステン耐切創手袋を通した業界発展貢献活動」
      (第129号)
  パナソニックライティングデバイス株式会社
寺田 剛
 今年の9 月上旬に、とある中学校の生徒たちが工場見学として当社を訪問してくれました。数年前までは年に数回の工場見学を受け入れていたのですが、コロナ禍により久方ぶりの受け入れとなり、対応する社員も意気込んでいました。これまでは、
生徒たちの興味の対象は丸形蛍光ランプなどのガラス加工が中心で、赤く熱せられたガラスが瞬間的に変形してランプの形になる様子が目を引くようでした。一方で今回の工場見学の事前質問には、今までに無かった“ なぜパナソニックが耐切創手袋を作ろうと思ったのか” という項目もあり、私たちのタングステン耐切創手袋の認知度も少し上がってきたと喜んでおります。

 当社は1948 年にタングステン線の生産を開始して以来、ランプ電極用のタングステンの製造を行ってきましたが、照明用タングステンの生産が減少し続けていることから、新規商材への展開を図っていることは周知の事実と思います。その取組の中には電器メーカーらしからぬ商材へもチャレンジしてきました。例えばタングステンの重厚感を活かした印鑑への利用に関しては、実際に社内での販売を行い使用感の確認や生産課題の見極めまで行っていましたが、最終的には商品化に至らず、現在は顧客訪問時に持参してアイスブレークに使うことが最大の功績になっています。あるいは放射線防御目的に厚さ1cm を超えるタングステン不織布を作りましたが、重すぎて使い勝手が悪いという課題が残りました。その中で、一般ユーザー向けの
製品化を実現し、更に品種拡充を進めている商材が冒頭のタングステン線を用いた耐切創手袋です。

 他社から発売されている耐切創手袋は、繊維自体の強度を活かしたものやステンレス線やガラス繊維を入れたものが中心であり、タングステン線を入れた手袋は発売されていませんでした。そこで、この分野への参入を図るため手袋メーカーと連携し商品開発を行ってきましたが、従来の品質保証の考え方では対応に苦慮することも多くありました。衣料製品と冶金製品とでは試験方法が異なる事は当然のことですが、数値化するのが困難な評価指標が多くあり、今でも試行錯誤を続けながら商品開発を行っています。

 例えば作業性向上という官能的な要望にお応えするために、手袋を嵌めたままボルトやナットをつまんで一定距離を移動させる時間を計測する、といった方法を考えたのですが、繰り返し試験するうちに作業者の熟練度が上がってしまい、タングステン線径や編み方を変えても有意差が分からなくなったことも有りました。結局、屈曲時に必要な応力などを数値で表すようにしたのですが、実際に多くの方々に使用していただいたところ、人それぞれ好みの柔軟性がある上、作業内容によって使い勝手が大きく左右されるため、最適な数値決定には時間を要しました。

 また、商品開発だけではなくプロモーション方法も新たな試みにチャレンジしています。ある展示会出展時には、来場者の方々に普通の手袋と耐切創手袋とをハサミで切っていただき、切りづらさを実感していただきました。明らかにタングステンの入った耐切創手袋の方が切る際に力を入れる必要があり、体験していただいた方々には好評だったのですが、硬いタングステンによりハサミが直ぐに使用できなくなったため、展示会終了時には使えなくなったハサミが大量にできあがる、といったこともありました。

 このように衣料製品と冶金製品とでは多くの違いがあることを実感する毎日ですが、意外なことで親近感を覚えることも有ります。それは、繊維の太さを表す際に、繊維径を㎜などの長さで示すのではなく、単位長さあたりの重量で表す事です。これはタングステン線のMG による線径表示と同じであり、細い線を測定することの難しさに業界は関係ないのだと感じております。

 最後になりますが、9 月1 日は防災の日という事で当社のタングステン耐切創手袋も幾つかのメディアに取り上げていただきました。更には9 月7 日から開催された防災グッズ大賞展においてもアウトドア部門の優秀賞を頂きました。これらの活動によりタングステンと言う高強度素材を多くの方に知っていただく機会を得たと思っています。また、第一弾の手袋が好評であったことから、デザイン性と作業性を向上させた第二弾の手袋を9 月21日に発売することも出来ました。このような一般の方々を対象とした取組を通して、まだまだ馴染みの薄い“ タングステン” という素材の認知度を向上させ、業界の更なる発展に貢献できるよう、これからも取り組んでまいります。

     第二弾耐切創手袋(9 月21 日発売)


     優秀賞授賞式

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