1. 緒⾔
平均一次粒子径が約30nm のWO3 のナノ粒子により構成されているルネキャットⓇは、一般的に知られているTiO2 系光触媒では吸収できない約480nm までの可視光を吸収することができる可視光応答型光触媒であり、この特性を生かして、UV
カットされた車内や、太陽光が入りにくい室内の蛍光灯・白色LED 照明を利用して、光触媒効果を発現することができる。光触媒は、光のエネルギーを吸収して、電子を励起し電子が抜けたところは正孔(ホール)となる。電子は酸素を還元し、正孔は水を酸化して、それぞれ活性酸素種を生成して消費され、生成された活性酸素種と正孔は強い酸化力を持っている。これらの強い酸化力により、消臭効果や抗菌、抗ウイルス効果があることが知られている。
弊社ではルネキャットⓇについて、これまで、可視光照射下でシックハウス症候群の原因となるアルデヒド等の揮発性有機化合物(VOC)の酸化分解することを確認している。また、表1に示すように,第3者機関での試験において、黄色ブドウ球菌、大腸菌、MRSA、O157、緑膿菌、肺炎桿菌などの細菌類や、インフルエンザウイルス、ネコ腸コロナウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス代替ネコカリシウイルス、ライノウイルスなど、種々のウイルスへの抑制効果があることが実証されている。
2019 年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19) の病原体が、新型コロナウイルスSARSCoV-2 であることがWHO より発表され、わが国でも様々な対策、研究がなされてきた。
ルネキャットⓇの新型コロナウイルスSARS-CoV-2 に対する抗ウイルス効果の研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)での「新型コロナウイルス(2019nCoV) の制圧に向けての基盤研究」の分担研究課題である「診断法・予防法の評価・検証等の基盤確立に関する研究」の研究課題の一つとして行われた。試験は、ISO 18071:2016(屋内照明環境下の半導体光触媒の抗ウイルス活性の測定)を参考に、室温20 ℃の環境下で白色蛍光灯を用いて3000lx の照度で6 時間照射し(紫外線は、380nm 以下の紫外線をカットするアクリルシートを用いてカットした)、照射後のウイルス感染価を評価した1)。
2.実験方法
SARS-CoV-2(JPN/TY/WK-521 株) は、5%(v/v)FBS を添加したDMEM 培地で培養されたVero E6/TMPRSS2細胞株(JCRB 1819)に感染させた後、加湿された37 ℃ のCO2 インキュベーターで増殖させ、5.93 〜6.24logTCID50/mL のウイルス懸濁液(pH6.8)を調整した。光触媒は、量産工程で製造されたWO3 を純水に分散させたスラリーをシリカバインダーと混合した後、基材となる30 × 30mm のスライドガラスに滴下し全面に広げ、100℃のホットプレートで2分間乾燥させ試験片を作製(WO3 の塗布密度4g/m2)し、対照となるサンプルはシリカバインダーのみを塗布したスライドガラスを用いた。ウイルス懸濁液の接種量は30 μ l / 30× 30mm とした。光触媒の抗ウイルス効果の評価は、ISO
18071:2016 を参考としつつ、20W の白色蛍光灯(FL20SSW)を光源として使用し、ウイルスは光照射完了後、270 μ L のDMEM
を用いて回収し、Vero E6/TMPRSS2 細胞株に感染させ3日間培養することで感染価を測定した。また、免疫ブロット分析と,TEM 観察を通じて、光触媒によるウイルスの形態学的影響をあわせて評価した。
3.結果および考察
図1にSARS-CoV-2 の感染価の測定結果を示す。住空間で使用される一般的な白色蛍光灯の光を6 時間照射において、ルネキャットⓇを塗布しない対照は5.18logTCID50/ml であった。一方、ルネキャットⓇ塗布ガラス上では、3.05 logTCID50/ml となり、感染価が2.13logTCID50/ml と有意に減少し、ウイルス抑制効果(99.2%以上)が確認された。
この効果はウイルスのスパイクタンパク質の構造上の損傷を伴う作用であると思われることが、免疫プロット分析結果や、図2に示す可視光照射前後のルネキャットⓇ塗布ガラス上から回収したSARS-CoV-2 のTEM 像から示唆された。TEM 像では、6h 光照射後にウイルス表面の複数の突起(スパイクタンパク質)の減少が観察された。
以上の結果および考察より、ルネキャットⓇは380nm以下の波長をカットした光照射条件下であっても、SARS-CoV-2 のスパイク蛋白に物理的な損傷を生じさせることで、宿主細胞受容体であるACE2(アンジオテンシン変換酵素2)への同ウイルスの結合を抑制した結果、不活化効果としてあらわれたと考えられた。
表1,図1,2(pdf)へのリンク(クリックするとAcrobatで見ることが出来ます
引用文献
1) Uema, M., Yonemitsu, K., Momose, Y., Ishii, Y., Tateda, K., Inoue, T., & Asakura, H. (2021). Effect of the photocatalyst
under visible light irradiation in SARS-CoV-2 stability on an abiotic surface. Biocontrol science, 26(2) : 119-125. |