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役員寄稿
  「マテリアルの力」  (第127号会報)
     日本タングステン株式会社
執行役員 機械部品事業本部長
味冨 晋三
 私がマテリアルに興味を持つようになったのは、高校で始めたテニスがきっかけです。当時、それまで主流だったスチールやアルミ合金製のラケットに取って代わり、CFRP(炭素繊維強化樹脂)製のテニスラケットが一気に普及しました。運動神経にやや難がある私でも、何とかボールを前に飛ばすことができたのは、軽量で扱いやすく、打球面(フェイス)が大きい、このCFRP 製ラケットのおかげでした。

 材料によって、こうも性能に違いがあるのかと大いに感心し、この炭素繊維がダイヤモンドや鉛筆と同じ元素からできていることにいたく興味を持った記憶があります。これが機となり、大学は材料系の学科を選び、研究室で粉末冶金を学んだ縁で、日本タングステン株式会社に入社いたしました。

 さて、マテリアルはいうまでもなく、あらゆるモノをかたち造っている万物の根幹です。人類はこれまで、様々なマテリアルを発見し、開発して社会を豊かにしてきました。マテリアルの進化は人類の歴史そのものであり、文明はマテリアルとともに発展してきました。照明機器や硬質工具、半導体基板の配線など様々な用途で活躍してきたタングステンやモリブデンも、その歴史の一部であり、主役の一人です。

 デジタル社会においては、リアルなモノに代わり、情報やデータがますます重要になると言われております。しかしながら、データを収集し、情報を蓄え、分析するのも、様々なマテリアルからなるセンサやデバイスです。実社会がバーチャルな空間ではなく、リアルな空間で営まれる以上、マテリアルの重要性は将来も変わらず、むしろますます期待は大きくなるのではないでしょうか。 

 このように社会の大きな期待を背に、マテリアルの発はこれからも続いていくわけですが、そのマテリアル開発のあり方が、今まさに大きな曲がり角に来ているように思います。そのキーワードとなるのはマテリアルズ・インフォマティクス(MI)と、サステナビリティです。

 MI とは、実験や計算で得られた膨大なデータをAI 技術で解析し、期待する性能が出そうな化学組成や微細構造を設計する、データ駆動型のマテリアル開発手法です。近年盛んに研究され、大きな成果を上げつつあり、今後のマテリアル開発において基盤となる技術とされています。

 私も技術者の端くれとして、これまでマテリアルの開発に関わってきました。仮説を立て、添加元素や配合組成などを種々変化させて実際に試作評価し、得られた結果をもとにまた仮説を立て、試作を繰り返す。最終的に目標性能をクリアした時の達成感は格別であり、このようなプロセスこそがマテリアル開発の醍醐味とも思っておりました。MI の発展を目の当たりにし、一抹の寂しさを感じてはしまいますが、マテリアル開発を抜本的に変革し得るデータ駆動型の開発手法は積極的に取り入れていくべきでしょう。 そのためには、データやAI に親しむ人材の育成が不可欠でしょうし、体系的にデータを保管し活用できるよう、データ環境の整備も必要となるでしょう。日本のマテリアル産業は長らく世界をリードしてきましたが、近年その競争優位性が揺らいでいるように思います。MI に関しては、アメリカや中国が日本に先行しているようですので、ますます日本の立場は危うくなりかねません。MI 人材の育成やデータ環境の整備は、タンモリ業界が一致協力して対処すべき課題なのかもしれません。

 サステナビリティという言葉を見聞きしない日はないぐらい、現在関心が高まっています。サステナブルな社会の実現は人類共通の願いであり、全ての企業の使命でもあります。大量生産、大量消費の時代はすでに過去のものとなり、メーカーにおいても、単なるモノづくりから、コトづくり、価値づくりへのシフトが必要とも言われております。

 マテリアル開発もサステナビリティの視点なしには成り立ちません。製品そのものの性能だけでなく、原材料の調達から製造プロセス、納品した後のサービス、寿命を迎えた製品の回収やその再利用と、サプライチェーンや製品のライフサイクル全体を見据えた設計開発が求められています。このような社会の期待に応えることは容易ではありませんが、ハードルが高いほど技術革新が生まれるチャンスと捉えることもできます。サステナビリティという目標がはっきりしているため、マテリアル開発の目指すところも必然的に明確になるようにも思います。マテリアル研究者や技術者にとっても、自分の仕事が大きな社会目標に直結するとなれば、自ずとモチベーションが上がるのではないでしょうか。

 タングステンフィラメントが煌々と世を明るく照らし、人々に笑顔や安心を与えたように、これからもマテリアルの力で人々の夢を叶え、明るい未来を実現していきたいと強く願っております。
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