Products
About us
Contact us

役員寄稿
  「タングステンや切削工具との出会い
      単身赴任生活の楽しみ」       (第126号会報)
     日本新金属株式会社
取締役 本社工場長
                                古宇田 成巳
 私がタングステンや切削工具と出会って30年が過ぎました。当時私は切削工具の生産技術を担当しており、主にインサートの超硬材種及びサーメット材種の素材製造に関わっておりました。開発からの新製品の立上げや現場からの生産性向上・歩留まり改善等のために素材製造の各工程をひとつひとつ確認し、工程条件見直し及び試作した材料の材質や形状的な評価に明け暮れる日々が続きました。

 ある時は1週間程夢中で形状的な評価のためマイクロメーターを使用し寸法測定をして腱鞘炎になりかけたり、ある時は焼結炉設備の条件立上げのため、深夜遅くまで焼結炉設備と焼結された材料の評価を行ったりと、数名のメンバーと共に格闘の日々を送っていたことを思い出します。

 種々の材料評価の中で苦労したことは、製造条件の設定にあたり安定して材料が出来る条件の設定です。再現性が得られなかったり、バラツキがあったりでは安定して製造できず、開発や現場からダメ出しをされた事もありました。初期工程での不具合が次工程に反映され、また次工程に反映されることから、ある特定の製造工程条件の見直しだけではなく、全工程において見直すことの重要性を知りました。見直しや改善は製造条件だけでは無く、設備自体の改善も必要でした。

 生産技術を担当して 4~5年が経った頃、上司より海外の工場で切削工具用素材の立上げを指示され、海外へ出張することになりました。初めての海外での仕事に、不安はありましたが、日本人スタッフのサポートもあり何とかなるだろう との意気込みで立上げに行きました。初めて見る海外工場の設備や機器類、そして現地の人達、少し戸惑いもありました。しかし、現地の人達と仕事の話や時にはプライベートな話をしているうちに、お互いが考えている事が理解できるようになり、立上げに関しての問題点を解決できました。

 また当時は、現在のようにメール等は無く、日本の上司やメンバーとはFAXでのやりとりでした。毎日夕方にその日の試験の状況を“ 紙(手書き)”に書いて日本へ送り、日本からは時差のため、次の日にサポートを受ける とゆう状況でした。そして現地の人達や日本の上司やメンバーの支援のもと、切削工具用素材の立上げを行う事ができました。何千キロも離れた海外でもきちんと条件を設定すれば、日本と同じ素材ができることを 当時 少し不思議に感じた事を覚えています。

 そして今、超硬工具に使用される超硬材種やサーメット材種の主成分となるWCやTiCN等の粉末製造に関わっております。安全、品質を最優先に、そして生産性と日々格闘している現在です。

 話は変わりますが、今年で単身赴任生活も6年目を過ぎ、関西圏(兵庫県)に住んで3年が過ぎました。奈良、京都、姫路、四国方面へのアクセスも良く、休日は鉄道やバスを利用し、お城や神社仏閣、美術館等へ足を延ばし、悠久の歴史や絵画の描かれた背景等に触れ、自己満足に浸っています。絵画については、数年前から特に西欧のものに興味を持ち、日本の美術館が主催する◯◯美術館展(例えば プラド美術館展)を見つけては足繁く通っています。

 宗教画や印象派の画家によるもの、宮廷画家による国王やその家族を描いたもの、絵の色合いや構図、人物の表情や着衣、そして描かれた背景等一枚の絵でかなりの時間を楽しむことができます。そのような絵の中で、特に異彩を放っているのが、スペインの巨匠パブロ・ピカソの「ゲルニカ」ではないかと思います。縦3.5×幅7.8mもある巨大な絵で、皆さんも一度はテレビやインターネット、雑誌等で、あるいはスペインで実物を目にしたことがあるかと思います。時は1937年、内戦状態にあったスペインで、フランシスコ・フランコ率いる反乱軍を支援するドイツ軍がスペイン北部バスク地方の文化的伝統の中心地である街ゲルニカを無差別爆撃し、一般市民を含め多くの命が奪われました。

 当時パリで活動していたピカソが、祖国の悲劇にその怒りと悲しみを込めてこの「ゲルニカ」を描き、同年に開催されたパリ万博のスペイン館に出展し、国際社会に戦争の悲惨さを訴えたのです。絵は死んだ子供を抱きかかえる母親、瀕死の馬、死んだ兵士と、まさに阿鼻叫喚、観る人によっては少し違和感があるかもしれません。ゲルニカは、タペストリーを群馬県立近代美術館で、そして陶板に模写した実物大を徳島県の大塚国際美術館で観ることができます。私は両美術館とも観にゆきましたが、ピカソが怒りをキャンバスにぶつけている様子が思い出され、思わず身を退いてしまう感覚に襲われました。いつか本物をスペインで観てみたいと、密かに企んでいます。

 また絵画には作者自身を登場させているものがあります。その意図は、作者の遊び心なのか、何かを訴えたいのか 諸説あるようです。作者を登場させている絵(壁画)に、イタリアのバチカンにあるシスティナー礼拝堂の側壁にミケランジェロにより描かれた 「最後の審判」があります。中央のキリストの右下に描かれた人物が手にしている生皮がミケランジェロ自身とされているようです。よかったら探してみてください。

 コロナが終息し、世界が再び活気を取り戻し、世界の美術館を訪れたり、日本でも世界の美術館展が開催され世界の絵画を見られる機会が増えることを楽しみにしています。
会報目次へ戻る