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寄 稿
  「トリプルコイル開発秘話」 (第123号会報)
  岳石電気株式会社
川上 善宣
 私が岳石電気に入社した2001 年頃、この時はまだLED の脅威も無く、タングステンフィラメントが広く使われハロゲンランプが全盛期の時代でした。その様な状況下で私は、社のプロジェクトとしてJDR(一般照明用ラインボルトハロゲン電球)のトリプルコイルの開発に携わりました。

 世界的にJDR にはダブルコイルが使用されていましたが、より発光効率を上げ、点光源に近づける為、世界初のトリプルコイルの量産化が急務でした。しかし、トリプルコイルは呼び名の通り50μm のタングステンワイヤーを3 回巻線した形状をしており、MD 比(ワイヤーと内径の比)が悪く、高温点灯するとサグ(高温垂下)してしまう問題がクリア出来ず、頭を悩ませる毎日でした。

 サグとは、フィラメントが高温(約2800℃)になった際に、タングステンの結晶粒界が滑って変形する事でワイヤー同士が接触し、ショートして断線してしまう現象です。3 回も巻いたブヨブヨなトリプルコイルでは、特に垂下が激しく、絶対に量産化は不可能と言われていました。

 当時、岳石電気初代社長であった故人・嶽石基会長の下、一致団結し徹夜も辞さない覚悟で条件出しを繰り返す毎日で、時には設計を48 種類に振ってサンプルを作成した事も有りました。

        
      写真1:JDR        写真2:トリプルコイル拡大

 その様な繰り返し試作の中で、サグを防止する為には設計はもちろんですが、タングステンの高温熱処理による結晶の長大化が必須との意見で一致しました。

 しかしながら、完全再結晶化させる為には2000℃以上に昇温する必要が有り、通常の弊社水素熱処理設備では1600℃までしか温度が上がりません。一方、通電処理では理論的に2000℃以上の熱処理が可能ですが、芯線材料として使用し形状安定化の為に残しておく必要のあるモリブデンが耐えられず溶融してしまい、タングステンとモリブデンとのコンタミネーションが発生し、早期デフォームが発生してしまいます。幾度も会議を行い、試行錯誤を繰り返し、光明が見えてきたのは嶽石会長が発案した一般的なタングステンヒーターを使用しない昇温原理を利用した、小さいフィラメントの熱処理に特化した最高到達温度2800℃の超高速真空炉の完成でした。

        
 写真3:水素炉1600℃処理   写真4:真空炉1600℃処理
 
 真空中で熱処理する為、残留水素を除去する事に成功し、従来の再結晶化では得られない延性を持ったフィラメントの作成が可能となり、高温下でのサグが劇的に抑えられたのです。

 最終的に、ダブルコイルでは9 ㎜だったコイル長は、トリプルコイルにする事により5 ㎜へと短くする事が可能となり、高効率を実現しました。

 また、熱処理技術だけでなく、アセンブリに於いても、自動化する為にステムへの溶接技術を確立し、品質安定化にも対応致しました。

 あれから十数年が経ち、残念ながらJDR はほぼLEDに置き換わり、市場からトリプルコイルは姿を消してしまいましたが、これらの技術が今では様々な用途へと応用されております。例えば、高温真空炉は放電灯に使用される高純度タングステン電極のクリーニングと再結晶化に、溶接技術は医療・分析関連でのアセンブリやコーティング技術として今も活躍しています。

 最後に、弊社のスローガンは「光と熱源のパイオニア」となっており、今後も業界内だけでなく全世界に明るい未来を提供する新技術を発信出来る企業に成長していきたいと思っております。

      
 写真5:PTFEコーティング(カテーテル)
 
 
 写真6:コーティングアセンブリ(電子銃)
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