「未来の世代はあなたを見ている」

日本タングステン株式会社
取締役社長 後藤 信志

 8月の北部九州大雨及び台風15号により被災された関係者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興をお祈りいたします。
 昨年会報112号の巻頭言を執筆しているときは、サッカーワールドカップが開催されておりましたので、ワールドカップサッカーを題材にして書かせて頂きました。なんと今回はワールドカップラグビーが日本で開催中ですし、日本が無事初戦に勝利したこともあり、またスポーツネタでいくかと頭をよぎりました。しかしながらタンモリ工業会の関係者には「ラグビー命」の方がかなりいらっしゃるようで、下手なことを書くとおしかりを受けそうですので、すんなりとあきらめることにしました。
 
 そんな時、非常に興味深い表題のニュースを目にしました。「未来の世代はあなたを見ている。私たちを裏切る道を選べば許さない」。これはスウェーデンの環境活動家グ
レタさん(16才)が9月23日ニューヨーク国連本部で開催された「気候行動サミット」で各国首脳の前で演説した言葉です。地球温暖化対策を訴える言葉には今までにない迫力を誰もが感じ取ったと思います。「私たちは絶滅の始まりにあるというのに、あなたが話すのはお金や経済成長のことばかり」、なんとも辛辣な言葉ですが、もはや現実の問題です。

 演説をしたグレタさんの年齢は16才、まだ100年近く生きる彼女たちの世代には確かに身に迫る深刻な問題です。世界の首脳も(私たちも)地球温暖化などの環境問題が深刻な事態であることは頭では理解していますが、人類の最優先課題として取り組める具体的な行動までには至っていません。目の前の政治課題、経済課題が常に優先されています。当面の課題に注力しなければならないことは、現代を生き抜く私たちにはしかたのないことですが、未来の世代はいつになったら実行するのか待ちきれない気持ちです。私たちの世代の50年後と未来の世代の50年後の問題は同一視されていません。温暖化など、地球の危機はまだまだ先のことと考えることは、その昔SF小説の中の未来を、「ほんとうには実現できない空想」と考えていたことと同じような気がします。

 ところが、現実には昔SF小説の中だけのお話が次々と現実のものになっています。特にこの20 年の科学技術の躍進にはめざましいものがあり、理論から実践の段階に入り、しかもSF でしか語られていなかった永遠のテーマが具体的に実現できることがわかってきました。人間の寿命も大幅に伸びそうな勢いですし、AIの技術も一気にいろいろな分野に利用される最重要技術と位置付けられてきました。AI、ロボットはもはや現実のものですが、ロボットという言葉はもともと演劇の中で生まれたそうです、科学技術に裏打ちされたものではなく、空想から生まれました。人間のかわりを務める労働力としてロボットという発想が生まれ、夢見てきたわけですが、いまや誰もがロボットを目にしており、さらなる進化も誰もが確信しています。そしてロボット(AI)は人間のかわりを務める労働力どころか、人間にとって代わって意思決定を下す脅威となっています。つまりシンギュラリティが1945年だろうなどということを聞き流しているか、AIをどこまで利用するかということを本気で考えるかで未来が変わってきます。

 すでに身近かなところでは意識していませんが侵食されており、その典型的なものがスマートフォンです。すべての情報をいつでもどこでも手のひらの上に集めることができます。簡単な選択、意思決定もすでに任せています。この現実は、超大容量データの超高速処理が可能になる未来での生活が映画「レディ・プレイヤー1」のように、バーチャルの中での生活に置き換わることも否定できません。 環境問題と同じように、AIのような先端技術が人類に及ぼす影響を本気で考えることが、グレタさんが訴える環境対策と同じように、未来の世代にはとても重要なことだと思います。

 産業革命以降人類は立ち止まることなく突っ走ってきましたが、そろそろ立ち止まり考える時かもしれません。ちなみにSF作家アイザック・アシモフは小説の中で「ロボット三原則」というものを考え、人間とロボットの共存をテーマにしました。空想の中のロボットでさえもその存在について議論すべき問題でした。今や空想ではなく現実となってきているAIについて、私たちはどこまで考えているのでしょうか。

 グレタさんの訴えは単に環境対策にとどまらず、未来の世代へ何を残していくかを議論する機会ととらえ、少なくとも私たちの企業の未来世代の声に耳を傾けるようにしたいと思います。


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