「モリブデン製鍛造成型容器の開発」

株式会社アライドマテリアル
竹内 泰之

1. 緒言
サファイア単結晶育成炉に使用されている容器(以下るつぼ)は、2000℃以上の高温領域でサファイアを融解して保持する必要があるため、容器材質の選定条件として、
 ①2000℃以上の融点を有する
 ② 2000℃以上で容器形状を維持できる強度を有する
 ③所望の形状に加工可能で
あることの3つが挙げられる。要求事項としては、低コストと長寿命である。これらの選定条件を満たす材質として、金属タングステンおよびモリブデンや、貴金属系の材質が使用されている。しかしながら、貴金属で2000℃以上の融点を有する材質は限られており、原料費が非常に高いことや原料鉱石の産地国が偏在し、供給リスクは少なくない。

 一方、タングステンやモリブデンは貴金属に比べてコストや供給面で有利な動向である。そのなかで、タングステンは全元素のなかで最も融点が高く( 融点3400℃ )、本用途の容器には最も適していると見込まれるが、モリブデンに比べると、原料費が高価で、るつぼに成型するにも難加工材であるため、モリブデン( 融点2600℃ ) が実装して使用されている事例が多い。

 これまでのモリブデンの使用事例では、焼結材のザグリ加工や、板材のしぼり加工で成型される事例が多かった。これらの事例では、るつぼ形状への成型は可能であるが、コストが高く、るつぼの寿命が短いという問題があった。

 そこで本件では、低コストで、かつ寿命の長いモリブデンるつぼの開発を目標とし、 鍛造成型によるモリブデンるつぼの開発事例を紹介する。

2. 製造方法
 モリブデンるつぼの製造方法は①焼結材②しぼり加工③鍛造成型の3つの方法が主である。
①②の特徴は以下の通りである。
   焼結材   長所:所望の形状に近い形が得られる設計が可能(ニアネット)
          短所:密度が低く、粒界強度が弱いため変形しやすい。
   しぼり加工 長所:塑性加工を施すため焼結材に比べると密度は高い。
          短所:容器の側壁と底部の境界の曲がり部に変形が起こりやすい。

 しかし、①②共に、変形部から溶融したサファイアが粒界を介して、るつぼ表面に漏れてくるという共通の問題(短寿命)があった。
 そこで、本開発では①②共通である短寿命を克服すべく、③の鍛造成型に着目した。壁部や底部曲がり部にも高温における耐変形強度を有する製品設計をおこない、鍛造前の焼結体形状を円柱状として、ハンマー鍛造加工によって、鍛造後にるつぼ形状に成型する加工方法を確立した。
 ③の鍛造成型で「所望の形状に近い形が得られる設計」かつ「壁部や底部曲がり部も変形が起こりにくい」の両立を目指した。

 具体的には、壁部や底部曲がり部も高い加工度の鍛造加工を施す製品設計とした。これまでのハンマー鍛造加工は、平鍛造、または45°程度の曲げが限界であった。そこで、鍛造加工の条件を逐次検討し、

 そのなかで加熱温度やショット数の影響度が大きいことが判明した。これらの条件を工夫することにより、従来可能ではなかった直角曲げに近い鍛造加工が可能となり、高い加工度の鍛造加工を施す目標を達成した。

3. 結果
 2.で得られた③の鍛造成型るつぼは、以下の結果であった。
  I. 鍛造成型のるつぼの密度は理論密度比98% を越えていた。懸案であった、壁部や底部曲がり部の密度も理論密度に近い値を確保できた。
  II. サファイア単結晶育成を実際に行なったところ、使用可能時間が従来のるつぼ①に比べて30%以上増加した(長寿命化)。
  III. 従来の製造方法②に比べてコストは低減した。

 この結果、目標としていた「低コストで、かつ寿命の長い」モリブデンるつぼの開発を達成することができた。

4. まとめ
 サファイア単結晶育成用のるつぼとして、材質の選定条件は、高融点、高温強度、形状加工性であり、金属モリブデンはそれを満たしている。しかし、これまでのモリブデンるつぼは、焼結材や板材のしぼり加工で成型される事例が多く、るつぼの寿命が短いという共通の問題があった。

 その問題を解決すべくハンマー加工におけるモリブデンの鍛造加工を開発した。従来のハンマー加工では、平鍛造、または45°程度の曲げ鍛造が限界であったが、加熱温度、ショット数など工夫することにより、直角曲げに近いるつぼの鍛造成型技術を確立することができた。

 単結晶育成炉の生産に用いるるつぼの主流サイズは、これまでφ 100 × H50mm 以下であったが、本件で開発した鍛造成型技術を適用することで、φ 100 ×H50mm を超える大型の製品も提供できるようになり、単結晶育成の生産に寄与できる。

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