「生物の進化とイノベーション」

日本タングステン株式会社
取締役社長 後藤信志

  昨年の7 月より理事を務めさせて頂いております日本タングステン鰍フ後藤でございます。今後とも御指導御鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

 先日、生物が40億年以上前に誕生した可能性があるとのニュースが流れておりました。化石が出てきたわけではありませんので、現在の通説約37〜38億年前が覆るかどうかわかりませんが、非常に長い時間をかけ生物は進化してきたわけです。太古の昔にその一歩を踏み出した生命は、その後地球環境の変化等により絶滅と繁栄を繰り返しながら現在まで進化してきました。時には大きな環境の変化により、時には突然変異などの偶然により絶滅の危機をなんとかすり抜け、一進一退を繰り返しながら少しずつ進化してきました。

しかも、ただ単に次世代に命を繋ぐだけではなく、DNAという進化の設計図を備えました。DNAは種の次世代への継承と同時に変革を可能にし、より予見不可能な環境変化などに耐え、絶滅を逃れ進化できる確率を大きく向上させました。また、このDNA自体にも進化を推進させるプログラムが組み込まれました。個体の寿命です。寿命を適度に短くすることによりDNAによる進化のサイクルを短くし、生き残る新しい力をできるだけ早く備えられるようにしたわけです。

 もしも生物の平均寿命が500年であれば、私たちはまだ海の中を泳いでいるか、とうの昔に絶滅していたかもしれません。また、環境の変化は進化を劇的に進める重要なファクターとなりました。気温、大気中の酸素濃度など大きな環境の変化により多くの種が絶滅しましたが、環境変化を耐え忍んだものの中から飛躍的な進化を遂げるものが現れ、そのたびに爆発的な進化を遂げました。環境の変化が過酷であればあるほど、絶滅する可能性も高くなりますが、それは新たな道を切り開く数少ないチャンスでもあったわけです。

 もう本稿で私がお話ししたいことは御察しのことと思いますが、人類の文明も、生物の進化と同じようなものではないかと思います。近代文明の歴史は、生物の進化と比べると瞬きのような時間でしかなく、また複雑なものでありませんが、産業革命以来次から次へといろいろな発明により古いものが新しいものに置き換えられてきました。私たちのタンモリ市場を支えてきたタングステンフィラメントの電球も、新たな光源に置き換えられようとしています。それにともないタングステンの需要も激減し、私たちタンモリ業界は厳しい状況が続いています。この市場の危機を耐え、次の世代に新しいものを残していくヒントが生物の進化の歴史に探れるような気がします。

 まず、私たちには先輩から受け継いできた技術がありますが、この技術の継承そのものは生物の進化で考えると本来の進化ではありません。受け継いできた技術をさらに改善し、新たに創り出した技術を次の世代に引き渡してこそ進化と言えます。この新しいものを創り出す力こそ私たちが先輩から受け継いできたものだと思います。大きな環境変化のない安定した平和な世界が長く続くと進化のスピードが遅くなるように、安泰な市場が長期にわたり継続すると、ついつい環境の変化への対応が鈍くなってしまいます。いつ来るかわからない環境の変化を常に意識して、イノベーションのドライビングホースを維持していくことが重要です。

 また、生物は突然変異によっても大きく進化してきました。突然変異が本当に偶然の産物かどうかについてはまだ明確になっていないようですが、爆発的な進化をもたらす大きな要素であることは間違いありません。私たちの企業文化も同じことが言えると思います。大きな変革が求められない安定した市場の中では、どうしても閉塞的な企業文化になってしまいがちです。閉塞的な風土の中からは、革新的なアイディアは生まれません。急ぎ大きな環境の変化に耐えうる力を引き出すためには、ダイバーシティを積極的に推進することも一つの手段だと思います。企業風土は短時間では変わりませんが、変えようという意思と異文化を受け入れる体制さえあれば、困難なことではないと思います。またすでに各社産学官連携に注力していると思いますが、今までと違った視点で枠組みを考えて実行すれば、新たなイノベーションを生み出す可能性が広がります。

 私たちのタンモリ市場がこれまで経験したことがない新たな時代に入ったことは誰もが認めることだと思います。上述した考え方もほんの一例にすぎませんが、とにかく今までにない発想、視点ですべてを変える覚悟が必要です。今こそ私たちが先輩から受け継いできたタンモリ進化のDNAで、業界一丸となって新たなイノベーションを起こし、次の世代にバトンを渡せる礎を築いていきましょう。


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